【連載】キリン「ブランドアクション」② 行動こそが、ブランドの資産になる ― 機能的価値・情緒的価値の先にあるもの ―

※本稿は連載記事3本中の2本目です。
[第1回:ブランドは「行動する存在」になった ― キリン「一番搾り」「晴れ風」「グッドエール」の取り組み ― は こちら]
[第3回:ブランドアクションは企業経営を変える ― 続けることが、ブランドをつくる ― は こちら]

行動そのものが、ブランドの資産になる

前回は、キリンの「一番搾り」「晴れ風」「グッドエール」が、それぞれ異なる社会課題に取り組んでいる様子を紹介しました。企業ではなく、ブランドそのものが「行動する主体」になっている、という新しい発想です。

では、なぜ企業は、こうした活動にわざわざ力を入れるのでしょうか。今回は、その背景にある考え方を、少し整理してみたいと思います。

ブランドアクションのねらい

こうした取り組みには、寄付そのものによる直接的な支援効果とは別に、ブランドにとって次のようなねらいがあると考えられます。

ひとつ目は、ブランドの存在意義をはっきりさせることです。

これまで「一番搾り」といえば、「おいしいビール」「ビールを代表するブランド」というイメージが中心だったかもしれません。そこに「日本の食を支えるブランド」という新しい一面が加わることで、ブランドのイメージそのものが広がっていきます。これは、ブランドが何のために存在するのか、という「パーパス」を明確にする動きだと言えます。

ふたつ目は、消費者との心理的な距離を縮めることです。

ビール市場は成熟しており、各社が主力ブランドを持ち、ブランドごとに固定ファンもついています。味や品質を磨き続けることはもちろん大切ですが、それだけで他社と差をつけたり、競合ブランドからスイッチしてもらうことは簡単ではありません。

そこに、「このブランドを買うことが、生産者を支えることにつながる」という新しい購入理由が加わると、消費者は「価格」や「味」だけでなく、「共感するから選ぶ」「応援したいから選ぶ」という感情でもブランドを選ぶようになっていくのです。

三つ目は、長期的なブランド価値を高めることです。

今は「何を言っているか」よりも「どんな行動をとっているか」が問われる時代です。演出としての広告以上に、ブランド自身の意思決定や振る舞いこそが、最大のブランディングになりつつあります。

いくつかのマーケティングの考え方と重なる

キリンのブランドアクションは、いくつかのマーケティングの考え方と関連しています。ここでは、そのうち代表的な二つを紹介します。

「コーズ・マーケティング」は、社会課題と商品の購入を結びつけるマーケティング手法です【注1】。一番搾りの例で言えば、

 ビールを買う → 寄付される → 農業支援になる

という、シンプルな流れがそこにあります。消費者は、いつも通り商品を選んだだけなのに、その先で社会課題の解決に関わることになる。この「買うことが、支援すること」という結びつきこそが、コーズ・マーケティングの核にあるものです。

もうひとつは、「CSV(Creating Shared Value)」です。これは、企業の利益と社会の価値を同時に生み出そうとする発想で、単なる寄付とは少し違います。

農業が元気になる、地域が元気になる、そしてブランドの価値が上がり、売り上げも伸びていく。「企業と社会の両方に利益がある」状態を目指す点が特徴です。ブランドアクションは、寄付という行為を入口にしながら、実はこのCSVの発想に近いところを目指しているように見えます。

ブランド競争の軸は、少しずつ増えている

ブランドが競い合う軸は、時代とともに変化してきました。

かつては、「おいしい」「品質が高い」といった「機能的価値」が中心でした。やがて、「楽しい」「かっこいい」といった「情緒的価値」が重視されるようになります。そして今、「社会や環境に良いことをしている」という「社会的価値」が、新しい競争の軸として加わりつつあります。

「一番搾りアクション」をはじめとするキリンのブランドアクションは、まさにこの社会的な価値を、ブランドの中核に据えようとする試みだと言えるでしょう。

ただし、こうした活動は、一度やって終わりというわけにはいきません。消費者から「表面的な取り組みだ」と受け止められてしまうと、逆効果となり、ブランド離反を招くリスクさえあるかもしれません。成果を継続的に示していくことが、長期的なブランド価値の向上には欠かせない条件になります。

短期的効果と中長期的効果

ブランドアクションの効果には、いろいろなものが考えられます。

比較的早く表れやすいのは、次のようなものです。

  • ニュースとして取り上げられる
  • SNSで話題になる
  • 好感度が上がる
  • 店頭で選ばれる理由が増える

一方、数年単位で見えてくる効果としては、次のようなものが挙げられます。

  • ブランドロイヤルティの向上
  • リピート率の向上
  • 値引き競争への耐性
  • ファンコミュニティの形成
  • ESG投資家からの評価向上
  • 採用力の向上

こうした活動を数年にわたって続けることで、「社会に役立っているブランドだ」という認識が少しずつ定着していきます。それが、他社のブランドとの差別化要因になっていくのです。

次回へ

パーパス、コーズ・マーケティング、CSV。呼び方はいろいろありますが、ベースにあるのは同じことです。ブランドは、「約束を語る」だけでなく、「実際に行動している」ことによって、消費者からの信頼を得ていく、ということです【注2】

では、この「行動」を一度きりのキャンペーンで終わらせず、ブランドの資産として育てていくには、何が必要なのでしょうか。次回は、「継続すること」の意味と、その先にある企業経営との関わりについて見ていきます。

〈注〉

1.コーズ・マーケティングのコーズ(cause)は「大義」の意味で、コーズ・マーケティングは、コーズ・リレイテッド・マーケティングともいいます。

2.「約束を語る」というのは、広告やスローガン、キャッチコピー、企業メッセージなどを通じて、ブランドが言葉で表明する内容のことを指しています。例えば、「私たちは、お客様の健康を第一に考えます」といった、広告やCM、企業理念、パッケージのコピーなどに書かれる宣言・スローガンのことです。これらは、企業やブランドが「こうありたい」「こう見られたい」という意思を、言葉で表明したものです。

〈参考文献〉

キリン「一番搾りACTION」https://ichiban.kirin.co.jp/ (2026年7月3日閲覧)

キリン「晴れ風ACTION」https://harekaze.kirin.co.jp/hanabi/ (2026年7月3日閲覧)

キリン株式会社「まったく新しいキリンビールはじまる。 未来に向けた、次世代定番ビール『キリングッドエール』誕生」ニュースリリース、2025年9月22日公開、https://www.kirinholdings.com/jp/newsroom/release/2025/0922_01.pdf (2026年7月3日閲覧)


※本稿は連載記事3本中の2本目です。
[第1回:ブランドは「行動する存在」になった ― キリン「一番搾り」「晴れ風」「グッドエール」の取り組み ― は こちら]
[第3回:ブランドアクションは企業経営を変える ― 続けることが、ブランドをつくる ― は こちら]