【連載】選択がマーケティングの風景を変える④ AIは幸福な出会いを生み出すか? ― 「需給の質的なマッチング」の実現へ ―

※本稿は連載記事4本中の4本目です。
[第1回:なぜプラットフォームは一強になるのか ― 「良いサービス」が勝つとは限らない理由 ― は こちら]
[第2回:合理性のジレンマ ― 勝ち馬に乗ることは、本当に合理的なのか ― は こちら]
[第3回:便利さの積み重ねが、私たちを変えていく ― プラットフォームの上で暮らす時代 ― は こちら]
前回のコラムでは、私たち消費者が、便利さを積み重ねる中でプラットフォームに適応していく過程について考えました。
では、そうした時代に、企業や商品はどのように「選ばれる存在」になっていくのでしょうか。
連載の最終回である今回は、そのことについて考えてみます。
消費者は「探す人」から「相談する人」へ
これまで、人が商品を購入するとき、自ら情報を探していました。
複数店舗のチラシを比較したり、ネットで検索をしたり、口コミやレビューを読んだり、店頭で見比べたり。このような行動は今後も続くでしょう。
しかし、AIとの対話が一般的になると、商品の探し方は少しずつ変わっていくかもしれません。
「こんな悩みがある」「こういう使い方をしたい」「予算はこのくらい」・・・
AIは、その条件に合う候補を見つけ出し、提案するようになります。そして、消費者は、自分のニーズに合った商品選びを(仮に、そのニーズをうまく言語化できない状態であっても、迷わず)AIに相談するようになっていくでしょう。
AIは、新しい「仲介者」になる
これは、企業にとっても大きな変化です。
これまでは、商品を人間に見つけてもらうことが重要でした。そのために、広告を出稿し、ウェブ検索結果で上位に表示されるようにし、店頭で目立たせているのです。
今後は、人間に見つけてもらうだけでなく、AIにも見つけてもらう必要が生じてきます。より正確に言うならば、AIが、「この人には、この商品が合う」と判断できるような情報をウェブ上に掲載することが求められるというわけですね。
企業・ブランド・商品・サービスは、人間だけでなく、AIにも理解される存在になることが求められる、そんな時代になろうとしています。
AIは「たくさん売れる商品」を選ぶのか
AIは、「売れ筋商品」をすすめる仕組みになるのでしょうか。私は、そうとは限らないと思っています。
もちろん、AIが人気商品ばかりをすすめるのであれば、市場はさらに一極集中してしまうでしょう。
しかし、AIは、一人ひとりの状況や目的に応じて、異なる商品やサービスを提案できる可能性があります。ある人には最適でも、別の人には最適とは限りません。その違いを理解した上で提案できることが、AIの強みです。
「質的なマッチング」が現実になるかもしれない
上原征彦氏は主著『マーケティング戦略論』などを通じて、「マーケティングとは、需給の質的なマッチングである」と述べています。「質的」とは、本当に必要としている人と、その人にとって価値のある商品やサービスが出会うことを指しています。
これまで、その理想を実現することは、決して簡単ではありませんでした。企業は、自社の商品を知ってもらうこと自体に苦労し、消費者も、自分に本当に合った商品を見つけられず、妥協しながら選ぶことが少なくありませんでした。
AIによって、こうした状況は変わるかもしれません。
埋もれていた小さな企業の商品や、こだわりのサービス、地域に根ざした専門店。あるいは、非常に限られた人だけが必要としている商品。このような存在を本当に求めている消費者がいたとしても、見つけることは簡単ではありませんでした。
しかし、AIが、その人の状況や価値観を理解し、本当に合った商品やサービスを提案できるようになれば、これまで生まれなかった出会いが生まれる可能性があります。
私は、そのような出会いは、企業にとっても、消費者にとっても、「幸福なマッチング」になるのではないかと思います。
AI時代に変わらない本質
もちろん、AIがすべてを解決するわけではありません。どのような商品を推薦するか。どの情報を重視するか。そこには、新しい課題も生まれるでしょう。
しかし、マーケティングの本質は、おそらく変わりません。AIは、より質の高いマッチングを支える存在になるのかもしれません。
プラットフォームの時代を経て、AIの時代が到来した今、マーケティングは新しい段階へ進もうとしています。
〈参考文献〉
上原征彦(1999)『マーケティング戦略論 実践パラダイムの再構築』有斐閣
〈関連記事〉
【コラム】「探す力」の壁が壊れるとき――AIが導く、需給の質的マッチング(2026年6月22日公開)
https://ichikawa-marketing.com/ai-niche-products-search-barrier/
※本稿は連載記事4本中の4本目です。
[第1回:なぜプラットフォームは一強になるのか ― 「良いサービス」が勝つとは限らない理由 ― は こちら]
[第2回:合理性のジレンマ ― 勝ち馬に乗ることは、本当に合理的なのか ― は こちら]
[第3回:便利さの積み重ねが、私たちを変えていく ― プラットフォームの上で暮らす時代 ― は こちら]

