【連載】選択がマーケティングの風景を変える① なぜプラットフォームは一強になるのか ― 「良いサービス」が勝つとは限らない理由 ―

今回から4回にわたり、「選択がマーケティングの風景を変える」と題したコラムをお届けします。

消費者の選択、企業の戦略、プラットフォーム、そしてAI。私たちの「選ぶ」という行動は、市場やマーケティングの姿をどのように変えてきたのでしょうか。そして、これからどのように変えていくのでしょうか。そんなことを、一緒に考えてみたいと思います。

※本稿は連載記事4本中の1本目です。
[第2回:合理性のジレンマ ― 勝ち馬に乗ることは、本当に合理的なのか ― は こちら]
[第3回:便利さの積み重ねが、私たちを変えていく ― プラットフォームの上で暮らす時代 ― は こちら]
[第4回:AIは幸福な出会いを生み出すか? ― 「需給の質的なマッチング」の実現へ ― は こちら]


2026年現在、ネット検索といえばGoogleです。しかし、インターネットが普及し始めた頃はそうではありませんでした。

Yahoo!、Infoseek、goo、Excite、livedoor、MSNなど、多くの検索サイトが、それぞれ特徴を打ち出しながら利用者を集めていました。ブログサービスも同様です【注1】。利用者は、それぞれのサービスを使い比べ、自分に合ったものを選んでいました。

近年では、対話型AIも似た状況にあります。ChatGPT、Claude、Gemini、Copilot、Perplexity、Gensparkなど、多様なサービスが登場し、それぞれが独自の特徴を打ち出し、競い合っています。

こうした状況を見ていると、自分の音楽活動でも、同じことが起きてきたように思います。かつて自作曲はMySpaceなどの音楽共有サービスで公開していましたが、現在はYouTubeを利用しています【注2】。YouTubeは映像共有サービスでありながら、音楽作品を公開・共有する場としても事実上の標準になっています。

しかし、このような群雄割拠の状態は、いつまでも続くとは限りません。

振り返ると、多くの分野で、市場は少数の有力なプラットフォームへと収束してきました。なぜ、そのようなことが起きるのでしょうか。


人が集まること自体が価値になる

プラットフォームには、一般の商品とは異なる特徴があります。利用者が増えるほど、そのサービス自体の価値が高まることです。これを「ネットワーク効果」と呼びます。

例えば、SNSは利用者が少なければ交流できる相手も少なくなります。しかし、多くの人が利用するようになると、友人や知人、企業や著名人ともつながることができるようになり、サービスの価値は一段と高まります。動画共有サービスも同様です。利用者が増えると投稿者が増え、投稿者が増えると視聴者が増え、さらに投稿者が集まります。

AIサービスも少し違った形で同じ現象が起きています。利用者が増えることで、関連サービスや拡張機能、書籍、解説記事、研修、コミュニティなどが充実し、「使いやすい環境」そのものが育っていきます。

このように、プラットフォームでは、「人が集まること」そのものが価値になります。


利用者自身の予想も市場を動かす

こうした循環が続くと、市場は次第に一部のサービスへと収束していきます。

しかし、その背景にあるのは、ネットワーク効果だけではありません。

プラットフォーム市場では、「このサービスは、この先も多くの人に選ばれ続けるだろうか」という利用者の予想も、市場が一部のサービスへと収束していく流れを後押ししているように思います。

私自身、新しいサービスを試すのは好きです。しかし、仕事で使うツールとなると、単に性能だけで選ぶのではなく、「このサービスは数年後も残っているだろうか」と考えている自分がいます。

仮に数年後にサービスが終了すれば、それまで積み重ねてきたデータや知識、習慣を失うかもしれません。仕事で使う以上、「長く安心して使えること」は、性能と同じくらい重要な判断材料になります。

その結果、多くの人が「良いサービス」だけではなく、「多くの人に使われそうなサービス」を選ぶようになります。


「美人投票」としてのサービス選び

経済学者ジョン・メイナード・ケインズは、株式市場を「美人投票」にたとえました。重要なのは、自分が最も美しいと思う人を選ぶことではなく、「他の人が最も美しいと思う人」を予想することだという考え方です。自分の評価ではなく、他者の評価を予想して行動する点に、この考え方の特徴があります。

プラットフォーム選びにも、似た構造があるように思います。自分が最も気に入ったサービスを選ぶだけではなく、「多くの人が今後も使い続けそうなサービス」を予想して、それを選ぶ。その予想が、さらに利用者を集め、勝者を生み出していきます。


勝者はこうして生まれていく

もちろん、優れたサービスは、ある程度、利用者を集めるでしょう。しかし、プラットフォーム市場では、それだけでは説明できません。

利用者が増えることで価値が高まり、その価値がさらに利用者を呼び込む。そして、「将来も多くの人が使うだろう」という予想が、その循環をさらに強めていきます。市場の勝者は、単に性能だけで決まるのではなく、多くの人の期待や予想の積み重ねによって生まれていく側面もあるわけですね。

では、私たちは勝ち馬に乗ることが、本当に合理的なのでしょうか。

その問いについては、次回、「勝ち馬に乗ることは、本当に合理的なのか」をテーマに考えてみたいと思います。


〈注〉

1.ブログサービスもまた群雄割拠でした。現在ではアメーバブログ(アメブロ)やnoteが広く利用されていますが、かつてはジオシティーズ、gooブログ、ココログ、FC2ブログ、はてなダイアリー、Yahoo!ブログなど、多くのサービスが利用者を集めていました。

2.市川マーケティング研究所の鈴木雄高は「市川市の小さな楽団」を標榜するご当地バンド「ノスタルジー&ルミエール」に参加し、自作曲(市川市にまつわるオリジナル・ソング)をYouTubeで公開しています(代表曲:鬼越ステイション、君の心は藪知らず、ふたりのソルトビーチ)。本稿で触れた音楽共有サービスの変遷も、その活動を通して実際に経験してきました。ノスタルジー&ルミエール公式YouTubeチャンネル:https://www.youtube.com/@nos_lumi/videos


※本稿は連載記事4本中の1本目です。
[第2回:合理性のジレンマ ― 勝ち馬に乗ることは、本当に合理的なのか ― は こちら]
[第3回:便利さの積み重ねが、私たちを変えていく ― プラットフォームの上で暮らす時代 ― は こちら]
[第4回:AIは幸福な出会いを生み出すか? ― 「需給の質的なマッチング」の実現へ ― は こちら]