【連載】数字の裏側にあることに目を向けて① ヤオコーはなぜ外環道路沿いに店を構えるのか ― 在庫回転期間をひも解く ―

※本稿は連載記事3本中の1本目です。
[第2回:在庫回転とその背景 ― ヤオコー、オーケー、ドン・キホーテ ― は こちら]
[第3回:なぜ在庫のムダは消えないのか? ― ブルウィップ効果とドミナント出店 ― は こちら]
市川マーケティング研究所のある千葉県市川市には、スーパーマーケットのヤオコーが3店舗あります。そして、いずれも外環道路沿い、または、すぐ近くに位置しています。
これは偶然でしょうか?それとも必然なのでしょうか?
もちろん、必然です。では、ヤオコーはなぜ、この場所に店を構えたのでしょうか? その答えを探るヒントは、あるビジネス指標の中に隠されています。
本連載では、見聞きしたことはあるけれど、それがどんな意味を持つかを正しく理解できているか自信がないと多くの人が感じているであろう「在庫回転期間」という指標をひも解いていきます。
在庫回転期間――普段、見慣れない人は、漢字6字から成るこの専門用語を前に、緊張するかもしれません。この記事は難しいのではないか、と警戒しているかもしれませんね。
でも、心配は無用です。かなり易しく説明しますので、ご安心ください。
在庫回転期間が意味すること
在庫回転期間とは、簡単に言えば「商品が棚にどれだけ留まっているか」という滞留時間のことです。この期間が短いということは、商品がどんどん売れていき、次々と新しいものに入れ替わっていることを意味します。なお、在庫回転期間が短いことを、在庫回転が速いとも言います。
ところで、今、「棚」と書きましたが、正確には売場の棚にある在庫だけが対象なのではありません。在庫回転期間という指標が捉えている「在庫」は、以下のように多様です。
- 売場にある商品(販売待機中)
- バックヤードや店内の予備在庫(売場への補充待機中)
- センター・物流倉庫の在庫(店舗への配送待機中)
- 原材料や半製品(加工待機中)
店舗だけでなく、企業全体で見て、在庫が入ってきて出ていく(消費者に販売する)までの期間を表す指標、それが、在庫回転期間です。
もちろん、企業は、様々な商品を仕入れて販売しますので(あるいは自社で製造して販売するので)、商品ごとに在庫回転期間は異なります。この指標は、全体としてみた場合の在庫回転期間である、という意味ですね。
食品であれば、期間が長いほど鮮度は低下し、品質は劣化します。トレンドの変化が激しいカテゴリーであれば、売るタイミングを逸している可能性すらあります。逆に、この期間が短いことは、商品の鮮度が高く、需要を見越した巧みな発注ができている、あるいは、物流が極めて効率的であることを示しています。
業態特性を反映する在庫回転期間
では、この数字をどう見ればよいのでしょうか。まずは、主要な小売企業のデータを並べてみましょう。
【企業別の在庫回転期間】

在庫回転期間が短い企業から順に並べています【注1】。
なお、棒の色は、薄い緑色が「食品スーパー」、濃い緑色が「総合スーパー」または「総合ディスカウントストア」、赤紫色が「ドラッグストア」です(グループ企業が複数業態を運営している場合は主力業態で色分けしています)。
【グラフの色と業態】

グラフを見ると、業態によって在庫回転期間に特徴があることがわかります。
生鮮食品や惣菜が主役の食品スーパーは回転期間が短く(回転が速く)、化粧品や医薬品を扱うドラッグストアは期間が長い(回転が遅い)ですね。食品に加え、日用品、衣料品、電気製品、玩具、文具、家具などを幅広く扱う総合スーパーや総合ディスカウントストアは、これらの中間に位置します。
業態による在庫回転期間の差は、必ずしも業態の優劣を表しません。扱っている商品の性質や、企業の戦い方が異なるからです。
在庫回転期間の長さを決めているのは、突き詰めれば一つの軸です。それは、「毎日のように買うもの」を売っているか、「たまにしか買わないもの」を売っているか、という違いです。
生鮮や総菜は、その日か翌日には食べてしまうものなので、毎日のように買い替えが起きます。だから在庫回転期間が短い(在庫回転が速い)。
一方、化粧品や医薬品は、一度買えばしばらく持ちますし、そもそも必要な人が限られています。だから在庫回転期間が長い(在庫回転が遅い)。
総合スーパーや総合ディスカウントストアは、この両方を店内に抱えています。食品も売れば、衣料品や家電も売っています。「毎日買うもの」と「たまに買うもの」が同居していため、在庫回転期間も、食品スーパーとドラッグストアの中間に落ち着きます。
なお、ドラッグストアは企業によって品ぞろえが大きく異なり、それによって在庫回転期間にも差が見られます。食品販売に注力している企業(コスモス薬品、クスリのアオキHD)は在庫回転期間が短く、調剤薬局の併設が多い企業(ウエルシアHD)、化粧品の品ぞろえが豊富な企業(マツキヨココカラ&カンパニー)は在庫回転期間が長いことがわかります。
また、バローHDのように食品スーパーを主力としつつ、ドラッグストアやホームセンターも多角的に営む企業の場合、他社と単純に数字を比較することはできません。健康診断の数値が人によって異なるのと同じで、企業もまた「体質」をセットで見なければならないのです。
数字は経営の意思表示
在庫回転期間という数字は、ただの計算結果ではありません。そこには「どこで商品を仕入れ、どうやって店舗に運び、どんな棚作りをするか」という、企業の経営戦略が色濃く反映されています。
冒頭のヤオコーの例に戻りましょう。同社は外環道路の開通を待たずして出店していました。これは、将来的な物流効率の向上を見越したものだったと考えられます。配送のしやすさは、そのまま「在庫を多く持たなくていい」という戦略に直結します。店舗在庫を過剰に持たなくてよく、センター在庫も多くしなくて済みます。
在庫回転期間が短い小売企業は、人気のある店舗を運営しているということもできますが、極めて高度な物流体制を構築しているケースも多いのです。
次回以降は、在庫回転期間をさらに深掘りします。在庫を持つことはなぜ経営にとってリスクなのか? なぜ物流戦略が数字を劇的に変えるのか? 数字の裏側にあることに目を向けていきましょう【注2】。
〈注〉
1.在庫回転期間の算出に用いた決算期は以下の通り(棚卸資産はこの前の期との平均を使用)。
25/2期:ウエルシアHD
25/3期:ヤオコー
25/5期:コスモス薬品
25/6期:トライアルHD、PPIH
26/2期:ハローズ、USMH、ベルク、アークス、ライフコーポレーション、イオン北海道、平和堂、イオン九州、イズミ
26/3期:オーケー、バローHD、マツキヨココカラ&カンパニー
26/5期:大黒天物産、クスリのアオキHD、スギHD
2.「~の裏側にあることに目を向けて」は、米米CLUB「浪漫飛行」の有名な一節です。
※本稿は連載記事3本中の1本目です。
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