【連載】数字の裏側にあることに目を向けて② 在庫回転とその背景 ― ヤオコー、オーケー、ドン・キホーテ ―

※本稿は連載記事3本中の2本目です。
[第1回:ヤオコーはなぜ外環道路沿いに店を構えるのか ― 在庫回転期間をひも解く ― は こちら]
[第3回:なぜ在庫のムダは消えないのか? ― ブルウィップ効果とドミナント出店 ― は こちら]

在庫回転期間が短い企業、その代表格がヤオコーとオーケーです。これらの企業の数字を見ていると、ある事実に気づかされます。それは、在庫回転期間の短さは単なる計算結果ではなく、経営の意思表示だということです。


ヤオコーの「飛ぶように売れる惣菜」を支える仕組み

ヤオコーの強みといえば、なんといっても惣菜です。飛ぶように売れる名物のおはぎやメンチ。大人気の惣菜を手間を惜しまず店内調理していますが、在庫は最小限に抑えています。

これは、高度な物流システムと、現場の調理・販売力が完璧に噛み合っているからこそできる芸当です。新鮮な材料が絶妙なタイミングで届き、どんどん作り、どんどん売る。このサイクルを支えるために、バックヤードで眠る在庫を抑え、常に「鮮度の高いモノ」が動く状態を作り出しています。

いわば、店舗と物流が一体となった巨大なキッチン、それがヤオコーのモデルです。

オーケーの「安く売れるものを売る」戦略

そして、在庫回転期間がヤオコーよりも短いのがオーケーです。

TBSラジオの「スーパー総選挙」で毎回首位を争っている2社【注1】が、在庫回転期間でも業界トップ水準であるという点は注目に値します。

オーケーの強みは、地域最安値です。それが圧倒的な集客力となっています。しかし、その裏側では、品揃えを大胆に絞り込み(そもそも、カテゴリーシェアナンバーワンのメーカーの商品を扱わないことさえ珍しくありません)、店舗オペレーションを極限まで効率化するとともに、店舗を支える物流設備への投資も惜しみません。

「安く売れるものだけを置く」という選択と集中に高回転を支える物流投資が組み合わさることで、オーケーのフロントとバックは、ヤオコーに負けず劣らず見事な連携を見せています。

PPIHの「圧縮陳列」

一方で、また違ったベクトルの面白さを見せてくれるのがPPIH(ドン・キホーテなど)です。

PPIHの店舗は、面積も品揃えも店ごとに大きく異なります。ヤオコーやオーケーが「チェーン全体での効率」を追求するのに対し、PPIHは「店舗ごとの裁量」を重んじる個店経営が特徴です【注2】

売れると踏んだ商品を大胆に品揃えし、予測が当たれば大当たり。しかし、おそらくは全然売れない空振りも少なくないはずです。高回転で品切れするヒット商品の横で、全然売れずに在庫が積み上がる……。しかし、それこそがドンキの面白さであり、失敗を恐れない「攻めの経営」の証です。

ドンキの店舗(特に非食品の売場)では、圧縮陳列と呼ばれる高々と積み上げられたような独特な陳列が見られます。これは、通常、店舗のバックヤードに在庫を置いておき、売場の商品が品切れしそうになったら品出し(補充)するという業務をするのに対し、在庫を全部売場に押し込むようにして陳列してしまうという方法です。常識では考えられない陳列方法で、売場が倉庫も兼ねていると言えますが、店舗オペレーションとしては、バックヤードからの品出し業務がなくなるため、効率化されている面があるのです。

また、バックヤードに在庫を抱える場合、従業員の目につく機会がすくないこともあって、その在庫が多くなりがちですが、ドンキの場合は売場で在庫を従業員が常に目にするため、売るための工夫をしやすいと考えられます。

結局のところ、PPIHの場合、ユニークな思想に基づく、ユニークな店舗運営、ユニークな売場づくりをしているため、在庫回転期間だけを他社と比べて優劣を論じられるようなものではないですね。他社と競争しているのではなく、顧客との真剣勝負をしている、といえばよいのかもしれません。

数字の先にある「戦い方」

数字を並べてみると、同じ小売業という枠組みの中に、これほどまでに異なる戦い方があることが分かります。

物流を磨き、商品供給の効率を追求するヤオコーやオーケーには「チェーンとしての秩序」があります。対して、店舗の裁量を最大化し、リスクを取って売場の個性を爆発させるPPIHには「個店としての情熱」が宿っています。

私たちが普段通り過ぎる棚の裏側では、今日もムダと効率の綱引きが繰り広げられています。効率的な在庫回転は一つの正解ですが、それが全てではありません。それぞれの企業が、どのような顧客体験を提供しようとして仕組みを構築しているのか。その視点を持つだけで、見慣れた棚の風景も違って見えてくるはずです。

しかし、そもそもなぜ企業はこれほどまでに在庫の圧縮に苦心するのでしょうか。いかに効率化を図っても、店舗運営には常に不確実性が付きまとうからです。

次回は、この「効率」と「ムダ」の力学を物流戦略の面から掘り下げます。なぜ企業は在庫の連鎖に苦しむのか、そしてドミナント出店がそれをどう解決するのか。引き続き、数字の裏側にあることに目を向けていきましょう【注3】


〈注〉

※1.TBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」内で開催されたスーパー総選挙における両社の順位は以下の通りです。第1回(2017年)と第2回(2018年)はオーケーが1位、ヤオコーが2位、第3回(2019年)はオーケーが1位、ヤオコーが3位(ライフが2位)、第4回(2022年)はオーケーが1位、ヤオコーが2位、第5回(2024年)はヤオコーが1位、オーケーが2位でした。(TBSラジオ 2022a,2022b,2024参照)

※2.ヤオコーも個店経営に注力しています。ただし、チェーンオペレーションによる効率化との両立が前提だと考えられ、各店舗に大幅に権限が委譲されたPPIHの個店経営とは異なります。

※3.「~の裏側にあることに目を向けて」は、米米CLUB「浪漫飛行」の有名な一節です。


〈参考文献〉

TBSラジオ(2022a)「スーパー総選挙に投票してみよう!」ジェーン・スー 生活は踊る(2022年9月14日公開)、https://www.tbsradio.jp/articles/59381/(2026年7月14日閲覧)

TBSラジオ(2022b)「やっぱり強い!王者『オーケー』が堂々4連覇を達成!『第4回 スーパー総選挙』の最終順位が大決定!」ジェーン・スー 生活は踊る(2022年10月20日公開)、https://www.tbsradio.jp/articles/60800/(2026年7月14日閲覧)

TBSラジオ(2024)「【速報】リスナーの皆さんの最高のスーパーを決める『第5回スーパー総選挙』 結果発表!」ジェーン・スー 生活は踊る(2024年8月29日公開)、https://www.tbsradio.jp/articles/87213/(2026年7月14日閲覧)


〈関連記事〉

鈴木雄高「ヤオコーとオーケーは市川市田尻で対峙する」市川マーケティング研究所(2024年10月15日公開、2025年8月21日更新)、https://ichikawa-marketing.com/yaoko-ok-ichikawa1/ (2026年7月14日閲覧)


※本稿は連載記事3本中の2本目です。
[第1回:ヤオコーはなぜ外環道路沿いに店を構えるのか ― 在庫回転期間をひも解く ― は こちら]
[第3回:なぜ在庫のムダは消えないのか? ― ブルウィップ効果とドミナント出店 ― は こちら]