【コラム】店内撮影、禁止するか?許可するか? ―― 「写メール」から25年目の夏に思う

スーパーマーケットやドラッグストア、アパレルショップ、雑貨店などで買物をしていると、売場の商品をスマートフォンのカメラで撮影している人を見かけることがあります。今すぐには買わないけれど、購入候補として、後でいくつかの候補と比較検討するのか、あるいは、買うつもりはなく、話題の商品を売場で見かけたことを知人に知らせたりSNSに写真を投稿したいのかもしれません。
今、この記事を読んでいる人の中にも、似たようなことをした人がいるかもしれませんね。
でも、店内での撮影には注意が必要です。実は、日本の多くの小売店舗には、入口などに「店内での写真撮影はご遠慮ください」と注意書きが掲出されているのです。
なぜ撮影を禁止するかといえば、主な理由は、競合店による価格調査や売場調査への対策、そして来店客や従業員のプライバシーを守るためです。店舗にとって、いずれも重要な配慮でしょう。
しかし、私たちの買物のスタイルは、この十数年で大きく変わりました。
スマートフォンが生活の一部となり、「気になったものを撮影する」という行動は一般化しています。さらに、撮影した写真をクローズドな場所(例えば、友人とのLINE)で、あるいは、オープンな場所(SNSへの投稿など)で、他者と共有することも特別なことではありません。
スマートフォンのカメラによる写真の撮影と共有という行為がこれだけ広がっている現在、禁止されていることを知らずに売場で撮影している人は少なくないと思います。
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少し前のことになりますが、サミットストアの弁当売場で興味深いPOPを見かけました。そのPOPは以下のようなものでした。
【画像:サミットストア テラスモール松戸店の弁当売場のPOP】

出所:筆者撮影。
POPには「迷ったら!撮って聞いてみよう!」と書かれています。
店外にいる家族へ写真を送り、どの弁当がよいかを相談してもらおうという提案です。
これは私の想像ですが、サミットストアの従業員が、(撮影が禁止されていた時代に)撮影した写真を家族に送って相談しながら弁当を選んでいる様子や、家族と電話をして相談している様子を実際に見たのでしょう。顧客の買物をより快適にするために、顧客のニーズに応えて、撮影許可を決めたのではないでしょうか。
ここで注目したいのは、「撮影を認めたこと」ではありません。顧客の行動を制限することよりも、顧客が実現したいことを支援することを優先した点です。
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実は、このような発想は以前から一部の小売企業で見られました。
例えば、ヨドバシカメラは店内撮影を認めています。同社では店頭価格とECサイト「ヨドバシ・ドット・コム」の価格を統一しており、価格情報はインターネット上で誰もが確認できる仕組みです。競合店に価格を見られることを前提とした上で、それ以上に、顧客による情報発信の価値を重視しているように映ります。
【画像:ヨドバシカメラ マルチメディアAkibaのPOP】

出所:筆者撮影。
また、ダイソーも店内撮影やSNSへの投稿を歓迎しています。話題の商品やユニークなアイデア商品を顧客自身が紹介することで、その魅力が自然に広がっていきます。
【画像:ダイソー ミレニティ中山店のPOP】
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出所:筆者撮影。
スーパーマーケットでは、サミットストアだけでなく、ベルクも店内撮影を許可しており、SNSで写真撮影してよいか迷っている人に対し、撮影可能であることを(他のお客様の映り込みに注意して、と添えて)丁寧に説明しています【注1】。また、以前は撮影禁止だったロピアですが、現在は店内撮影を許可しているようです【注2】。
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店内撮影を許可している企業に共通しているのは、顧客を「購入者」としてだけではなく、店舗や商品の魅力を他者に伝えてくれる「発信者」としても捉えていることです。
撮影を認める場合、人物の写り込みやプライバシーへの配慮など、他のお客様の迷惑にならないルールづくりは必要です。しかし、それらを理由に、一律に撮影を禁止するのではなく、顧客の利便性や満足につながる撮影であれば積極的に活用するという発想もあって良いと思います。
さらに現在では、Googleマップの口コミにも、多くの店内写真や商品写真が投稿されています。SNSと同様、顧客自身が店舗の魅力を発信する時代になりました。
私は、GoogleマップにはSNSとは異なる特徴がある点に注目しています。SNSへの投稿は時間とともにタイムラインの奥へ流れていく、フローの情報です。一方、Googleマップの写真は、来店を検討している人が店名を検索したとき、何か月後、あるいは何年後であっても目にする可能性がある、ストック情報になります。顧客が撮影した写真が、SNS上でただ「消費」されるだけでなく、ストック情報としてGoogleマップ上に、口コミとともに残り、「参照」され続けることを、小売企業はもっと重要視すべきだと思います。
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店舗側が、いくら撮影禁止を謳っても、スマートフォンのカメラでの撮影と共有がここまで普及している以上、SNSやGoogleマップに売場写真が投稿されることを完全に防ぐことは至難の業です。そう考えると、徹底的にリスクを回避した上で、店内撮影を許可し、顧客の情報発信を味方につける方針を打ち出すことは、時代に即した前向きな変化だと言えます。むしろ、遅いくらいです。
売場づくりに力を入れた売場、いわば「自信のある売場」には、「撮影歓迎」「シェア歓迎」であることを伝えるPOPを設置し、顧客の協力を積極的に獲得することを考えても良いとさえ思います。
J-PHONE(現在のソフトバンク)が携帯電話のメールで写真を送受信するサービスに「写メール」と名付け、これが大ヒットしたのが2001年のこと。あれから四半世紀が経ち、すっかり定着したカメラ文化ですが、国内の小売企業の多くが、いまだにそれを取り込めていません。
しかし、仕入れ販売を主とする小売企業は、商品そのもの以上に、売場づくりの工夫で顧客を惹きつけ、商品の魅力を訴求することに長けているはずです。
顧客が思わず目を奪われ、撮影したくなるような売場をつくること、そして、それを顧客に撮影、共有してもらうこと。その情報を見て、来店しようと思う顧客が増えること。店内撮影を許可することで、そんな好循環を創り出すことも可能です。
現状では、ほとんどの小売店舗で撮影が禁止されていますが、少しでも多くの店舗で撮影が解禁され、魅力的な売場を人々が共有しあうようになることに期待しています。
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〈注〉
0.タイトル「店内撮影、禁止するか?許可するか?」は、岩井俊二監督のテレビドラマ作品『打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』のオマージュです。
1.一方、ドン・キホーテは、SNSで店内撮影は可能か質問した顧客に対し、撮影を禁止していることを伝え、理解を促していました(例えば、2022年10月21日の公式X投稿)。
2.ロピアでは、いくつかの店舗で店内撮影を許可しているようですが、全店舗で許可しているかどうかは確認できていません。
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〈参考文献〉
鈴木雄高(2026)「攻めるダイソーの複数ブランド展開・EC戦略・顧客との共創」ecAction、2026年1月28日公開。https://ecact.jp/daiso-ec/(2026年7月28日閲覧)
鈴木雄高(2026)「ネットと店舗を統合するヨドバシカメラのEC戦略『競争力の源泉』」ecAction、2026年2月11日公開。https://ecact.jp/yodobashi-ec-strategy/(2026年7月28日閲覧)
