【コラム】「探す力」の壁が壊れるとき――AIが導く、需給の質的マッチング

目次
AI仲介時代におけるニッチ商品の生きる道
先日、義理の両親にちょっとしたギフトを贈りました。国内大手ECモールで商品を選び、支払いの手続きと配送先の指定をするという、いつもの手順に、今回、初めて、AIとの対話(チャット)が加わりました。
AIに対して、買物目的と、譲れない条件を伝えると、三つほど候補を提案してくれました。そんなやりとりを二度ほど繰り返すと、あっという間に、私の地元、市川市の名産「梨」を使ったデザートの詰め合わせに決めることができました。
巨大なECモールでの買物は、商品を絞り込む過程が何層もあり、煩わしく、ストレスを感じていたので、コンシェルジュのような役割をAIが担ってくれるのは助かります。
現時点でもAIは商品選択を支援してくれます。しかし、今後は買物そのものの仕組みが大きく変わる可能性があります。コラムで取り上げた、Amazonによる「Alexa for Shopping」とGoogleの「Universal Cart」は、EC事業者、リアル店舗を持つ小売業者、メーカーや卸売業者、そして消費者に、大きな影響を与えるでしょう。
今回は、以前の記事とは違う視点で、AIが買物を自律的に仲介する時代が本格的に到来したとき、ニッチな商品を販売する事業者に新しいビジネスの機会が生まれる可能性について考察してみたいと思います。
関連記事:【コラム】購買プロセスを吸収するAI――Google「Universal cart」とAmazon「Alexa for Shopping」の登場を受けて――
「探す力」という、これまでの高い壁
インターネットの登場によって、誰もがECサイトを通じて、日本中、世界中に商品を販売できるようになりました。しかし現実には、多くの小さな事業者が、大手企業の圧倒的な広告費や知名度の前に埋もれ続けています。
これまで、ネット通販で知名度のない事業者や商品が消費者と出会うためには、大きな壁がありました。それは、消費者の「探す力」です。「検索リテラシー」と言っても良いかもしれません。
「探す力」が高い人は、検索ワードを工夫して、広大なインターネットの中から、自分に合った商品を見つけ出すことができました。しかし、そうではない人は、そもそも、どのような語で検索すればよいかが思い浮かばず、本当に必要な商品を見つけることができませんでした。
出会うべき人と商品が、「探す力」の壁に阻まれて出会えなかったのです。
インターネットは、人々が商品を探す機会を大きく広げました。しかし、その恩恵を十分に受けられたのは、「探す力」を持つ人たちだったのかもしれません。
AIが埋める「探す力」の格差
しかし、私の体験したギフト選びのその先、AIが人間の代わりに自律的に商品を探し、提案してくれる時代が本格化すると、この構造が大きく変わる可能性があると思います。
消費者は、従来のキーワード検索のように、正確に言語化できていなくても、モヤモヤした悩みや、個人的な強いこだわりを、そのまま生の言葉でAIに伝えるだけでよくなります。
「手のひらが小さくて、長時間文字を書き続けても疲れないペンがほしい」
「築50年の和室の、この微妙な隙間にぴったりはまるモダンな収納箱がほしい」
するとAIが広大なインターネット空間の中から、大手企業の広告などに惑わされることなく、純粋な「ユーザーの悩みとの適合度」に基づいて商品を探し出してきます。商品スペックだけでなく、実際に使った人のリアルな声(レビュー)、SNSの声までを一瞬で横断的に要約し、「あなたに最適なものはこれです」と差し出してくれる、そんな時代が遠からぬ未来に到来するでしょう。
これまで、探すのが苦手だった消費者が、自分のニッチなニーズを満たしてくれる本物の商品と出会えるようになるのです。これは、埋もれていた素晴らしい商品を持つ事業者にとっては、自社商品を必要としている消費者と出会う機会が増えることを意味します。
変わるルール、変わらない本質
ただし、AIが商品を探して、提案してくれるからといって、事業者が何もしなくていいわけではありません。事業者が商品情報をきちんと整備しなければ、AIに発見してもらえません。
これまでは「人に見つけてもらうための情報の整備」が重要でした。目立つバナーを作り、感情に訴えかける商品ページを用意し、検索されそうなキーワードを散りばめるわけです。
これからは、それに加えて、「AIに見つけてもらうための整備」も重要になります。後者の方が前者より重要になる可能性さえあります。
AIは、人間のように雰囲気でお洒落なページを読むことはせず、裏側にあるデータ構造を読み解きます。価格、在庫、サイズ、成分などの基本情報が、AIに誤解なく伝わる正しいデータ形式で記述されているか、そして「この商品は、誰の、どんな悩みを、どう解決するか」が、AIが要約しやすいように記述されているかが、成功のカギを握るでしょう。
AIが買物に介在する時代は「伝える努力」が報われる
私は、購買行動の中にAIが入り込んでくることで、需要と供給のミスマッチが大幅に縮小することを期待しています。
需要と供給を質的にマッチングさせることを目指すのがマーケティングだということができますが(上原, 1999)、ニッチなニーズ(需要)に、精緻に合致する商品を供給することを、AIが可能にする時代が近づいています。
20世紀の大量消費時代は、効率のためにニッチな商品がチェーンストアの棚から消えていきました。
21世紀の初期にネット通販が普及すると、ロングテール商品にも機会があると謳われはしたものの、広告費をかけられない多くのニッチ商品は、「探す力」の壁に阻まれ、なかなか見つけてもらえませんでした。
しかし、今後、AIが仲介する買物が一般的になっていくと、どれだけニッチであっても、「誰かの特定のニーズに精緻に応える、意味のある商品」を作り、それをAIに向けて誠実に発信し続けている事業者は、AIに見つけ出してもらえるでしょう。
ツールの形は変わっても、「自社の商品が持つ独自の価値を、正しい形で世の中に発信する」という商売の本質は変わりません。
AIが買物に介在する時代は、「探す力の格差」が無効化される可能性があります。消費者が適切な検索語を知らなくても、自分の悩みや願いを自然な言葉で伝えるだけで、必要な商品と出会えるようになるからです。
AIは、ニッチな商品や小規模事業者にとって、地道で誠実な伝える努力に報いてくれる存在であると同時に、消費者に「発見の民主化」をもたらす存在になる可能性があるのです。
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(備考・参考文献)
〈備考〉
書かずもがなだとは思いますが、冒頭の画像はAIに作ってもらいました。
〈参考文献〉
上原征彦(1999)『マーケティング戦略論 実践パラダイムの再構築』有斐閣
※名著『マーケティング戦略論 実践パラダイムの再構築』は今年1月5日の記事で取り上げました。
〈関連レポート〉
本稿を元に作成した市川マーケティング研究所レポートシリーズVol.19を公開しました。
市川マーケティング研究所 レポートシリーズ Vol.19
AI仲介型ショッピングは「発見の民主化」をもたらすのか
― 需要と供給の質的マッチングに関する試論 ―
2026年6月22日
著者:鈴木 雄高(市川マーケティング研究所 代表)
インターネットと検索エンジンの普及は、消費者が膨大な商品情報にアクセスすることを可能にした。しかし、その恩恵を十分に享受できたのは、適切な検索語を用いて商品を探し出せる消費者に限られていた。本稿では、この状況を「探す力」の壁と呼び、検索時代の需給マッチングが内包する格差の問題として位置づける。近年登場しつつあるAI仲介型ショッピングは、消費者が自然な言葉でニーズを伝えるだけで商品探索を代行するという、購買行動の質的な変化をもたらす可能性がある。これは、知名度や広告投資に依存せず、ニーズとの適合度によって商品が発見される環境への転換を意味し、ニッチ商品や小規模事業者に新たな販売機会をもたらしうる。本稿は、この変化を上原(1999)のマーケティング定義(需給の質的マッチング)を参照しながら考察し、AI仲介型ショッピングが「発見の民主化」をもたらす可能性と、その限界・課題について論じる。
キーワード:AI仲介型ショッピング、発見の民主化、需給の質的マッチング、探す力、ニッチ商品、小規模事業者、EC
目次:
1. 問題提起:「探す力」の壁とは何か
2. 検索時代の需給マッチング
3. AI仲介型ショッピングの登場
4. ニッチ商品の発見可能性の変化
5. 小規模事業者への示唆
6. AIは需給の質的マッチングをどこまで実現するか
7. 限界と課題(広告・プラットフォーム・バイアス等)
8. おわりに
