【コラム】ブランドは、人に「好きになれ」と命じられない ―― 「平和ブランド」という言葉から考える

先日、新聞でこんな見出しを目にしました。

「平和ブランドを掲げてきた国が……」【注1】

安全保障に関する記事で、内容にも大いに関心を持ちましたが、私は別のことにも興味を向けました。

「ブランド」という言葉が、国に対して使われている、ということに。

ブランドと聞くと、多くの人は企業や商品のことを思い浮かべると思います。トヨタ、ユニクロ、コカ・コーラ etc. しかし、ブランドには、「人々の頭の中に形成されたイメージや期待」といった意味もあります。そう考えれば、ブランドは企業や商品だけのものではありません。私たちは普段から、「湘南らしい」「京都らしい」「北海道らしい」といった言葉を、ごく自然に使っています。街には街のブランドがあり、地域には地域のブランドがあります。そして、日本という国にもブランドがあります。新聞の見出しにあった「平和ブランド」とは、そのような意味で使われた言葉なのだと思います。

例えば、スイスには「精密さ」、フランスには「美食」、イタリアには「デザイン」といったイメージがあります。それらは単なる事実の羅列を超えたもの、つまり、その国が長い時間をかけて築いてきたブランド資産ともいえます。同じように、都市や地域にもブランドがあります。湘南と聞けば海辺の暮らしを思い浮かべる人が多いでしょうし、京都と聞けば歴史や伝統文化を連想する人も多いでしょう。

さらに、地域ブランドをつくるのは景色や名産品だけではありません。三ケ日のミカン、市川の梨【注2】——そうした名産品はもちろんですが、茨城県の鹿嶋市には鹿島アントラーズがあり、阪神地域には阪神タイガースがあります。市川市のお隣、船橋市の、市立船橋高校サッカー部は全国屈指の強豪で、長年にわたって地域の人たちに親しまれています。こうしたスポーツチームは、強くて優れたチームという存在に留まりません。地域の名前を全国に届け、その土地らしさを形づくるブランド資産でもあります。

一方、ブランドと愛着は同じではありません。

ブランドは、人々が抱くイメージです。これに対し、愛着や郷土愛、愛国心は、人の心の中に生まれる感情です。企業は、「このブランドを好きになってください」と命令することはできません。自治体も、「この街を愛してください」と命じることはできません。国家もまた、「国を愛しなさい」と言うことはできても、人々がそれに従うとは限りません。当たり前の話ですが、人は命令されて好きになるわけではないからです。

企業は、良い商品やサービスを提供し、信頼を積み重ねることでブランドへの愛着を育んでいきます。地域も同じです。暮らしやすい街をつくり、文化を育て、人々が誇りを持てる環境を整える。その積み重ねが地域ブランドとなり、そのブランドに触れた人々の中に愛着や誇りが芽生えていきます。

これは、企業が育てる「ブランドロイヤルティ」に似ています。商品ではなく土地、顧客ではなく住民、その対象は違っても、人と場所との関係が時間をかけて育まれていく構造には、共通するものがあります。

近年、行政文書などにおいて、「シビックプライド」という言葉を目にすることがあります。これは単なる帰属意識ではありません。その地域の一員であることに誇りを感じ、より良い地域にしていこうという主体的な気持ちまで含んだ概念です。つまり、地域ブランドは、シビックプライドを育むのです。そして、シビックプライドを持った人々の行動が、さらにブランドを育てていきます。そんな循環が生まれている地域が、いわゆる「ブランド力のある地域」なのだと思います。

新聞の見出しにあった「平和ブランド」という語から、そんなことを考えました。

ブランドは、商品だけのものではありません。地域や国のブランドも育まれていきます。

「好きになりなさい」と命じられて好きになる人はいません。人々が自ら、「この地域が好き」「この国っていいよね」と感じることが、地域ブランド、国のブランドにつながっていくのでしょう。


〈注〉

0.冒頭のアイキャッチ画像:生成AIにより作成(2026年7月24日作成)。

1.東京新聞ウェブ版「政府『骨太方針』で弾薬工場の『公設民営化』検討へ 『平和ブランドを掲げてきた国が…』識者から疑問の声」(2026年7月22日公開、2026年7月24日閲覧) https://www.tokyo-np.co.jp/article/502750

2.〈千葉県は全国一の梨生産地であり、その中でも市川市は市町村別産出額がトップクラスの梨の一大産地になっています。市川市で栽培される梨は、その知名度や歴史などが総合的に評価され平成19年8月に特許庁の地域団体商標登録『市川の梨』として地域ブランドの認証を受けました。〉(引用)
出所:市川市公式ウェブサイト「『市川のなし』について」(2025年10月27日更新、2026年7月24日閲覧)https://www.city.ichikawa.lg.jp/page/1404.html


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