【コラム】富里のスイカ、市川の梨——体験が地域をブランドにする

昨日、「第43回富里スイカロードレース大会」に参加しました。

富里でスイカ栽培が始まって100年目という記念すべき大会でした。

富里市はスイカの産地として知られています。千葉県はスイカの産出額で全国2位、その県内でも富里市は最大の産地であり、全国の市町村の中でも産出額4位を誇るスイカ産地です※1。
この大会の特徴は、レースの前後だけでなく、レース中にもランナーにスイカが振る舞われることです(「給水所」ならぬ「給スイカ所」と呼ばれていました)。ゴールまで「あと1km」の地点でおいしいスイカを食べ、失われた水分やカリウムを補い、元気が出ました!
*****
走り終え、仲間とのランチを経て、帰りの京成電鉄の車内で、私は地域マーケティングについて考えていました。
富里市が行っているのは、単にスイカをPRすることではありません。スイカを中心に据えた特別な体験を生み出しています。
- 走る。
- スイカを食べる。
- 写真を撮る。
- 誰かに話したくなる。
こうした体験は記憶に残ります。
人は必ずしも農産物の生産量ランキングを覚えているわけではありません。しかし、「あの大会で食べたスイカはおいしかった」「富里のマラソンは楽しかった」という体験は長く記憶に残ります。
ただ、最近では大会数も増え、どの大会も工夫を凝らしていますが、集客に苦戦するものもあると言います。
年間にいくつもの大会に参加するランナーも少なくありませんが、「富里スイカロードレース大会」の体験は記憶に残るでしょう。
地域ブランドとは、こうした体験の積み重ねによって形づくられるものなのかもしれません。
*****
そこで思い浮かんだのが、市川市の梨です。
千葉県は梨の栽培面積・収穫量・産出額ともに全国1位を誇り、市川市はその千葉県内でも産出額2位の産地です※2。
もし地域ブランディングを考えるのであれば、「市川市は梨の産地です」と伝えるだけではなく、梨を中心に据えた特別な体験を生み出せないだろうか、と考えました。
- 記憶に残る体験。
- 写真に収めたくなる体験。
- 人に話したくなる体験。
そのど真ん中に梨を置いてみるのです。
*****
実は、市川市の梨に関して、私自身にも忘れられない思い出があります。
子どもの頃、南大野の夏祭りで開催された「梨の皮むき大会」に参加したことがあります。
梨の皮をナイフでむき、途中で切らないようにできるだけ長くつなげて、その長さを競う大会です。私は大会に向けて家で何度も練習していました。しかし残念ながら優勝することはできませんでした※3。
それでも、その体験は何十年経った今でも鮮明に記憶に残っています。
考えてみると、この大会はとても面白い仕掛けでした。梨を食べるだけではありません。梨を使って遊び、競い合い、夢中になる。参加者は自然と梨に親しみを持ちます。
大人が参加しても十分に盛り上がるでしょうし、長くつながった梨の皮を手に持って写真を撮れば、それだけで記憶に残る一枚になります。
*****
ただし、体験をつくるだけでは十分ではないかもしれません。富里市自身も、毎年10万人ほどの観光客が訪れている一方で、〈まちの活性化に結びつく消費は限定的であり、地域資源を滞在型の観光に活かしていくことが課題〉であると認識しています※4。
体験を記憶に変え、記憶を消費や再訪につなげる——その設計こそが、地域マーケティングの次のテーマなのでしょう。
農産物の価値は、産地の看板だけでは伝わらない。その農産物と結びついた体験が、人の記憶に根を張り、茎を伸ばし枝を広げ、葉がつき、花が咲いて、実る時、はじめてブランドになるのかもしれません。
小学校の同級生に3人も梨農家の子がいた私にとって、梨は市川市の名産品である以上に、市を象徴する存在です。
その梨を中心に置き、どのような体験を生み出せるか。
地域資源を活かしたブランディング、ブランドつくりを進めていく上で大事な視点を、身をもって――スイカの名産地「富里市」を、脚で走り、舌で味わって――感じた一日となりました。
*****
〈備考〉
※1:〈農林水産省の2023年のデータ(推計)では、富里市のスイカ産出額は県内1位、全国4位を誇る。今年は同市の十倉地区で1926年に栽培が始まってちょうど100年となる。〉(引用)
出所:朝日新聞電子版「スイカ生産で千葉県内トップの富里市で査定会 今年で栽培100年」(2026年5月9日公開、2026年6月15日閲覧)https://www.asahi.com/articles/ASV584Q6HV58UDCB00KM.html
※2:農林水産省の農林水産統計速報(令和4年)によると、千葉県は、梨の栽培面積、収穫量(生産量)、産出額ともに、日本一です。また、同省の市町村別農業産出額(推計、令和4年)によると、市川市の梨の産出額は12.0億円で、白井市の13.3億円に次いで千葉県内の市町村で2位です。
出所:千葉県公式サイト「教えてちばの恵み 日本一の千葉の梨|旬鮮図鑑」(2025年4月14日更新、2026年6月15日閲覧)https://www.pref.chiba.lg.jp/ryuhan/pbmgm/zukan/kajitsu/nashi.html
※3:優勝したのはクラスメイトだったM.Kawaguchi氏でした。そのM氏とは大人になった今でも、氏が上京する際には餃子を食べる仲で、過去には何度か皇居ランを共にしたこともあります。「梨の皮むき大会」のことを覚えているか、次に会った時に聞いてみたいと思います。
※4:〈本市には、スイカロードレース大会やすいかまつりなどのイベントがあり、毎年10万人ほどの観光客が訪れています。しかし、まちの活性化に結びつく消費は限定的であり、地域資源を滞在型の観光に活かしていくことが課題です。また、成田空港に隣接する本市は、外国人が通過・滞在する機会に恵まれており、インバウンド観光の展開を検討することが重要です。〉(引用)
出所:富里市総合計画(2026年6月15日閲覧)https://www.city.tomisato.lg.jp/cmsfiles/contents/0000000/735/seisaku4.pdf

