【コラム】「仲介者」としての武器導入 ―― 楽天グループによるドイツ製攻撃型ドローンの陸上自衛隊への導入支援の報道を受けて

2026年8月17日、日本経済新聞は楽天グループがドイツの防衛スタートアップ、ヘルシングと提携すると報じました【注1】。ヘルシング製の攻撃型ドローン「HX-2」を陸上自衛隊向けに提案し、日本への導入を支援するというものです。ドローンの国内生産、いわゆる国産化も視野に入れているとされます。ロイターによれば、陸上自衛隊はこのドローンの試験を9月末まで実施し、導入の可否を検討するということです【注2】。
軍需産業への新しい関わり方
楽天はドローンを自ら開発するわけではありません。報道によれば、同社が担うのは、複雑な調達制度や政府機関との折衝、長期にわたる調達サイクルといった構造的な壁を持つ海外スタートアップと、日本の防衛需要とをつなぐ窓口としての役割です。楽天自身は「日本の防衛力強化には、防衛産業へのスタートアップの参入拡大が重要だ」と説明しています。
従来、日本の防衛調達は、大手重工業メーカーやシステムベンダーなど、限られた顔ぶれの企業が担ってきました【注3】。そこに、ECや金融、通信を本業としてきた楽天のような企業が、開発者としてではなく、「仲介者(橋渡し役)」として入ろうとしています。直接、商品(武器)を製造しなくても、その普及を後押しする立場になることができるわけです。楽天の動きは、企業と軍需産業との関係が多様になり、その距離が縮まっていくことを象徴するものとも言えそうです。
一企業の判断が重い意味を持つ
楽天は日本を代表する企業の一つであり、多くの人が買物をする際などにサービスを利用しています。そのような、社会インフラ的な役割をも担う、生活に密着した企業が、防衛分野にも関与するようになるという事実は、大きな意味を持つと思います。
本来、武器の調達や軍備の拡充は、主権者である国民の合意形成を経て、国会での議論を通じて進められるべき性質のものです。しかし、現実には、個別企業の経営判断やビジネス機会の追求が、安全保障政策を形づくることもあるのです。
ウクライナでの戦争は、ドローンが戦況を左右する主力兵器になりうることを世界に示しました。だからこそ各国政府も企業も、この分野への投資や参入を急いでいます。10月末にはドイツのメルツ首相の来日も予定され、日独の防衛協力が本格的に動き出そうとしています。こうした国際的な流れの中に、今回の提携も位置づけられます。
もし、これが当たり前になったなら(If This Were to Become the Norm)
私は、この動きには相応の理由があることを理解しています。中国の軍事力増強を念頭に置いた防衛力強化の必要性を説く声、スタートアップの技術力を安全保障に生かすべきだという主張、調達制度の非効率を民間の力で改善すべきだという議論には、それぞれ一定の説得力があります。攻撃型ドローンについても、重要な意思決定には人間の操作者を関与させる設計だとされており、無制限な自律兵器化への警戒とは一線を画すものだという説明もなされています。
それでも、私たちが普段そのサービスを利用しているような企業が、「仲介者」として武器の国内導入を推進することが常態化するとなれば、武器を持つことや使うことへのハードルがじわじわと下がっていくかもしれないと思うのです。企業による経済合理性に基づく意思決定が、安全保障を規定してしまうとしたら、民主的な統制のあり方として、健全とは言えないとも思います。
小さいけれど、気になる動き(A Small, Notable Move)
これを書いている最中に、一つ気になる出来事がありました。カタログハウスの通販誌「通販生活」は、2026年3月から出店していた楽天市場のショップを、8月18日付で取りやめると告知しました【注4】。告知文自体には、出店中止の理由は記されていません。楽天のドローン提携報道との因果関係は、私には分かりません。単なる事業判断としての退店なのかもしれませんし、まったく別の事情があるのかもしれません。
ただ、「通販生活」という媒体は、かねて護憲や平和主義的な立場からの発言を誌面で続けてきたことで知られています。そうした媒体が、時期を同じくして楽天市場から姿を消した事実を、記録の意味でも当サイトに記しておきたいと思います。
市川マーケティング研究所としては、今後も、こうした一つひとつの提携やニュースを、「大手企業の新規事業の話」として素通りせず(ましてや「時事ネタ」として消費するのではなく)、受け止め、じっくりと考え、関連するかもしれない事象との関係や、将来おこりうることを想像して、本稿のような短文を綴っていこうと思います。
〈注〉
0.冒頭のアイキャッチ画像は生成AIによって作成したものです。また、「もし、これが当たり前になったなら(If This Were to Become the Norm)」は、村上春樹著『もし僕らのことばがウィスキーであったなら』(If Our Language Were Whiskey)、「小さいけれど、気になる動き(A Small, Notable Move)」は、レイモンド・カーヴァー著『ささやかだけれど、役にたつこと』(A Small, Good Thing)のオマージュです。
1.日本経済新聞「楽天が攻撃型ドローン、陸自配備と国産化を推進 独巨大新興と提携」2026年8月17日、https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR2033Q0Q6A720C2000000/(2026年8月18日閲覧)
2.ロイター「ドイツ新興ヘルシング、陸自に攻撃型ドローン供給へ 楽天Gと連携」2026年8月17日、https://jp.reuters.com/economy/ZKGNP2C7YNI53EI7HUU7FZGFBE-2026-08-17/(2026年8月18日閲覧)
3.〈スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)は1日、2024年の全世界の防衛産業大手の売上高上位100社を発表した。日本からは三菱重工業(32位)、川崎重工業(55位)、富士通(64位)、三菱電機(76位)、日本電気(NEC)=83位=の計5社がランクイン。日本企業の合計売上高の伸び率は前年比40%増で世界1位となった〉(引用)
出所:産経新聞「防衛産業売上高、日本企業が世界一の伸び 中国脅威にらみ政府が防衛増強 SIPRI調査」2025年12月1日、https://www.sankei.com/article/20251201-IKD257IP5ZPF7IDEOPGB72POOA/(2026年8月18日閲覧)
4.〈2026年3月より「楽天市場」に出店していた「通販生活のショップ」を本日中止しました。これまでご利用いただき、ありがとうございました。今後は小社ウェブサイトをご利用ください〉(引用)
出所:通販生活 公式ウェブサイト「『楽天市場』への出店とりやめのお知らせ。」2026年8月18日、https://www.cataloghouse.co.jp/information/#info1 (2026年8月18日閲覧)
