【コラム】街路樹が増える都市、減る都市 ―― 市川市のまちづくりにもマーケティング視点を

日本の都市で減る街路樹

先日、ある新聞記事【注1】が目を引きました。気候変動による猛暑が深刻化する一方で、日本の都市部では街路樹が減少の一途を辿っているという現実です。

数字で見ると、その縮小ぶりは想像以上です。国内の街路樹は、ピークだった2002年の679万本から、2022年には629万本へと、実に50万本も減少しました【注2】。東京23区に限れば、この9年間で失われた木陰の面積は、東京ドーム256個分に相当します。東京大学の研究によれば、23区の樹冠被覆率(地面が木の枝葉に覆われている割合)は、2013年の9.2%から2022年には7.3%まで低下し、面積にして12平方キロメートルの木陰が、10年足らずの間に街から消えた計算になります。

この数字を、世界の主要都市と並べてみると、日本の立ち位置がより鮮明になります。樹冠被覆率は、ニューヨークが23.4%(2021年)、シドニーが19.8%(2022年)、パリが17.6%(2025年)で、東京の7.3%に対し2.4~3.2倍です。しかも、これらの都市は現状維持ではなく、さらに緑を増やす方向に動いています。日本は世界の潮流に逆行しているのです【注3】

その背景にあるのは、現場のリアルな課題があると思われます。台風による倒木、大量の落ち葉がもたらす清掃、限られた予算と人員など、行政は、このようなメンテナンスコスト(管理費用)やリスクを理由に、街路樹に対して消極的な姿勢となっているのではないでしょうか。

まちづくりは誰のためにあるのか

一方で、「まちづくりは、誰のためにあるのか?」と考えると、その答えは、言うまでもなく、そこで暮らす、働く、歩く、「市民」のためです。

行政がリスクを洗い出し、できない理由を列挙することは、危機管理において極めて重要で不可欠なプロセスです。しかし、「できない理由」を何とか打破したり、回避することで、克服し、市民の暮らしの満足度や幸福度を高めるために知恵を絞ることこそが、都市運営の本質だとも思うのです。

世界に目を世界に向けてみると、維持管理のコストを単なる支出と捉えるのではなく、地域の造園業者への業務委託による雇用創出や、市民ボランティアの巻き込みによるコミュニティの活性化など、社会的な循環への投資に変える試みも始まっています。

世界の都市が使う「ものさし」と「壮大な目標」

近年、ヨーロッパや北米の都市計画で急速に広まっている「3-30-300ルール」という共通の「ものさし(目安)」があります。オランダの都市林業研究者が2021年に提唱したもので、すべての住民が「自宅から3本の木が見え」「地域の木陰の割合(樹冠被覆率)が30%以上であり」「300メートル以内に質の高い緑地がある」という状態を目指す、評価のものさしです【注4】。北欧閣僚理事会における理事会傘下プロジェクトでの評価と実装でも活用が推奨されるなど、法的な拘束力こそないものの、都市計画の現場で広く共有される共通言語になりつつあります【注5】

面白いのは、海外の先進都市が「3-30-300ルール」というものさしを使って、自らの現状を厳しく診断した上で、期限を設けて、意欲的な、というより、かなり壮大な目標を掲げ、ムーンショット的な取り組みを推進している点です。これは一見チャレンジングに映るかもしれませんが、(行き当たりばったりのアクションでも、根拠の薄い掛け声でもなく)緻密な設計に基づいた計画なのです。

いくつか具体的に見てみましょう。

  • メルボルン(オーストラリア):市内すべての街路樹を調査・地図化したうえで、樹冠被覆率を2012年の22%から2040年までに40%へと、倍近くに増やす目標を掲げました。目標達成には年間少なくとも3,000本の植樹が必要だと科学的にシミュレーションし、さらに特定の樹種が全体の5%、属で10%、科で20%を超えないよう多様性の基準まで定めています。「なんとなく緑を増やす」のではなく、気候変動や病害虫に強い森をつくるための、精緻な生態学的設計です。
  • パリ(フランス):2020年から2026年までの6年間で17万本の樹木を、街路や広場、環状道路沿いなど可能な場所すべてに植えるという「樹木計画(Plan Arbre)」を掲げ、緑化に1億1千万ユーロを投資しています。市全体の目標だけでなく、20区それぞれに個別の植樹目標(例えば20区だけで1万本)を割り振り、モンパルナス周辺など特定の場所には大規模な「都市の森」を新設する計画も進んでいます。
  • ニューヨーク(アメリカ):2007年に「MillionTreesNYC」という、10年間で100万本の樹木を植える計画を開始し、目標を2年前倒しの2015年に達成しました。特筆すべきは、この計画に約5万人もの市民ボランティアが植樹に参加し、さらにその後の見守り活動にも数千人が継続的に関わった点です。管理を単なる「行政のコスト」で終わらせず、市民を巻き込んだコミュニティの価値へと転換させた好例と言えます。
  • シンガポール:2020年から10年間で100万本の樹木を追加で植える「OneMillionTrees」運動を、シンガポール・グリーンプラン2030の「都市の中の自然(City in Nature)」柱の主要施策に据えました。すでに8割以上を植え終え、当初2030年としていた目標達成時期を2027年へと前倒ししています。国土が限られた高密度都市であっても、緑を増やすことは十分に可能だという強力な証拠です。

これらの都市に共通するのは、現状の厳密な測定、達成年限を伴う定量目標、目標から逆算した年間ペース、予算の明示、進捗のモニタリングと軌道修正という設計があることです。壮大に見える数字の裏には、このような細かな数字の積み上げがあります。

市川市のまちづくりを考える――都市のマーケティングと未来への投資

私たちが暮らす市川市に目を向けてみます。

予算の確保が困難であることや、樹木の管理が大変であるという現実の課題は、「できない理由」になりやすいですが、上述のような、意欲的な目標を掲げて緑化を進める都市に学び、まずはグローバルなものさしを使って、市川市の現状を正しく測定し、市民に公表することから始めてほしいと思います。市内のどのエリアで木陰が不足しているのか、どれだけの市民が身近な緑の恩恵を受けられているのかといった事実を可視化することで、市民が緑化を「やるべきか」「やらなくてよいか」を主体的に考えやすくなるはずです。

ちなみに、今年(2026年)公開された『市川市総合計画2050』は、2026年度から2050年度までの25年間を見据え、市川市のあるべき姿と、そこに向かう方向性を示した、市政運営の基本的な計画です【注6】。言い換えれば、市川市自身が「これから、どんな街になっていきたいのか」を描いたものです。全150ページあるのですが、「街路樹」は1回だけ登場します。

『市川市総合計画2050』表紙

出所:市川市公式ウェブサイト「市川市総合計画2050」2026年4月1日更新、https://www.city.ichikawa.lg.jp/uploaded/attachment/48901.pdf (2026年8月19日閲覧)

行政が市民のQOL(生活の質)を高めようとすることは、民間企業でいえば、マーケティングにおける「顧客満足度(CS)」の向上を目指すことに相当します【注7】。歩道が、単に目的地へ移動できればいいという機能性だけでなく、心地よい木陰があり、ふと腰掛けられるベンチがあり、歩くこと自体が楽しいと思えるもの(マーケティングでいえば「情緒的な価値」を提供するもの)になれば、都市のユーザー体験(UX)は向上し、都市のブランディングにもプラスに働くでしょう。

行政は、市民が「この街に住み続けたい」「この街が誇らしい(誇れるものがある)」と思ってくれるようなまちづくりを行いたいと考えていますので、市民を単なる行政サービスの受け手としてではなく、一人ひとりの生活者と捉え、その暮らしの体験全体をよりよいものにしていくという発想は、行政にも大いに参考になるはずですし、既に市川市もそのような考えで行政運営をしているかもしれません。

その意味では、行政にもマーケティングの視点を取り入れる余地があります。市民が行政サービスを利用するだけでなく、日々の暮らしのなかで「この街っていいな、好きだな」と感じる機会をどれだけ増やせるか、そこまで含めて都市の価値を考えることは、やりすぎではないどころか、むしろ不可欠です。

「コストがかかるから増やさない/減らす」というのは、いわば守りの姿勢ですが、現状を診断し、マーケティング的な発想も参考にしながら、将来のために投資するという攻めの姿勢に転じることで、市民に選ばれる自治体に近づいていけるのではないでしょうか。守りだけでは、魅力は(減りはせずとも)増えはしませんからね 。


〈注〉

0.冒頭のアイキャッチ画像は、「MillionTreesNYC」のウェブサイトからの引用です。
出所:https://www.nycgovparks.org/trees/milliontreesnyc(2026年8月19日閲覧)

1.日本経済新聞「消える木陰、世界と逆行 日本の街路樹50万本減、庭木も相続で伐採」(2026年5月24日)

2.国土交通省・国土技術政策総合研究所の調査より。

3.樹冠被覆率は、測定手法(衛星画像・LiDAR)、行政範囲(市域か都市圏か)、大規模林地の扱いが、都市ごとに異なり、単純比較には注意が必要です。また、東京23区の7.3%は「都心の区部」という厳しい単位での値である点にも注意が必要です。

4.オランダ出身の都市林業研究者、セシル・コニンエンダイク・ファン・デン・ボッシュ氏が、2021年2月19日に提唱しました。

5.北欧閣僚理事会のVision 2030イニシアチブの一環である Yggdrasilプロジェクトが「3-30-300ルール」の到達度を北欧9都市で初めて評価し、実装ガイドとして報告書(Temanord 2025:520)を刊行しました。

6.市川市公式ウェブサイト「市川市総合計画2050」2026年4月1日更新、https://www.city.ichikawa.lg.jp/uploaded/attachment/48901.pdf (2026年8月19日閲覧)

7.もちろん、「行政は市民満足度を上げればよい」という単純な話ではありません。行政には、権利保障や将来世代への責任など、民間企業とは違う役割があります。


〈参考情報〉

もう切っちゃったんですね。約400本も。市川市の言い分は、「やむを得ず切った」「800本程度を補植する」。ちなみに、「補植」とは、「人工林で苗木が枯れたり倒れたりして空いた場所に新たに苗木を植栽すること}(出所:ウィクショナリー日本版)。

切っちゃったけど、新たに植えるので、計算上はマイナス分を補って余りある分のプラスになる、という論理ですね。

しかし、上に書いたように、

・新たに植えられた樹木が成長するまでには時間がかかる。十分に成長し、枝葉を伸ばすまでは、再開発前よりも緑の総量が少ない状況が続く
・まだ健康な樹木を切り倒し、新たに樹木を植えることが好ましくない
・新たに植えた樹木がそこに定着するか、枯れることなくすくすくと育つのかはわからない

という問題点、懸念点があります。

フリースタイル市川「【コラム】神宮外苑だけじゃない?樹木の伐採はなぜ行われるのか?~国府台公園で樹木400本が伐採される~」2023年9月16日、https://fs-ichikawa.org/trees_torn_out_tokyo_ichikawa/ (2026年8月19日閲覧)

市川市は、雨水管の新設工事に伴い、「いちかわ景観100選」に指定している同市文化会館前のケヤキ並木16本全てを、現場の判断で伐採していたことを明らかにした。

伐採されたのは、「文化会館とプロムナード」の約130メートルにある、約40年前に植えられた高さ7~8メートルのケヤキ並木。市によると、浸水対策のため、ケヤキ並木を含む県道沿いの歩道約350メートルの地下に雨水管を新設する工事をしていた。

毎日新聞「景観100選、全ケヤキ伐採 市川市 雨水管工事で現場判断 /千葉」2024年8月17日、https://mainichi.jp/articles/20240817/ddl/k12/040/032000c(2026年8月19日閲覧)