【コラム】健康を売る店から、健康を実践する場へ ―― フィットネス併設ドラッグストアの可能性

活況を博す「ついでに行けるフィットネス」
今月(2026年7月)、コンビニジム「chocoZAP(チョコザップ)」の国内店舗数が2,000店舗に達しました【注1】。出店開始が2022年7月なので、わずか4年間で2,000店舗を出店したことになります。
低価格・無人運営・24時間営業で、普段着のまま、手ぶらで行けるという気軽さ、通勤や買物など、日常の生活動線の中で立ち寄る場所として位置付けられることなどが支持され、急拡大しています。
チョコザップ以外にも、「わざわざ通うのではなく、生活動線の中でついでに立ち寄れるフィットネス」として人気を博している施設は多く、女性専用の30分フィットネス「カーブス」は、その代表格です。
これらのフィットネス施設の盛り上がりを見ると、運動習慣を身に着けたい、でも、わざわざ通うのではなく、ついでに立ち寄れる気楽さを求めているという、ライトな層が厚いことがわかります。
早すぎた挑戦 ―― ファミマ「Fit&GO」の教訓
ここで思い出すのが、かつてフィットネス併設コンビニを出店していたファミリーマートの試みです。
2018年2月、フィットネス「Fit&GO」を併設した店舗をオープンしました。この試みには、運動の前後に商品を購入してもらうねらいがありました【注2】。フィットネスに行き、そのついでに買物をする、つまり、メインが運動、サブが買物という行動を念頭に置いていたわけです。
結局、この取り組みは、新型コロナウイルス感染症の拡大もあり、当初の予定ほどには広がらず、3年後の2021年に終了しています【注2】【注3】。
フィットネス業界の情報を発信するウェブサイト「BEHIND THE FITNESS」によると、これまでに様々な企業がフィットネス事業の併設業態に参入してきたものの、成立は容易ではなく、撤退も相次いでいるとのこと【注3】。
これはファミマが「Fit&GO」を売却した2021年時点の併設業態に関する状況ですが、5年が経過した現在では、「ついでに行ける」チョコザップが支持を集めて2,000店舗を展開するまでになり、他社が運営する気軽に利用できる無人ジムも増えています。
生活動線中で運動習慣を身に着けたいというニーズがあることが明らかになったことに加え、無人ジム運営のノウハウが蓄積されてきました。そう考えると、店舗併設フィットネスが成立する可能性は以前より高いと考えられます。
ただし、コンビニという業態そのものが運動と結びつきやすいかというと、疑問符がつきます。コンビニは「便利さ」を提供する業態であり、運動との親和性は必ずしも高くありません。一方、ドラッグストアは医薬品、サプリメント、健康食品など、「健康」を軸に業態が形成されています。運動はその延長線上に位置づけやすい存在であり、コンビニでは難しかったことが、ドラッグストアでなら成立しやすい可能性があります。
チョコザップやカーブスなどの利用者には、何かのついでに、手軽かつ身近に運動を済ますという思考と行動がみられます。こうした利用実態を見ると、「ついでに運動する」こと自体は、すでに生活者の中に定着し始めていると考えられます。Fit&GOは、運動での来店をメイン目的として、そのついでに買物をしてもらう――いわば「運動客を買物客に変える」発想でした。しかし、ドラッグストアを主役に据えるなら、逆に「買物客を運動客に変える」という送客の方向性が成立するはずです。買物のために訪れた人が、そのついでに運動もする、という行動パターンは、現代の生活動線を踏まえれば十分に成立すると筆者は考えます。
ドラッグストア×フィットネスの先行事例
カーブスなど、いくつかのフィットネスチェーンは、NSC(近隣型ショッピングセンター。核テナントは食品スーパーであることが多く、ドラッグストアやクリーニング店など、日常づかいの様々な店舗を擁する、住宅地近隣の複合商業施設)に出店しています。買物のついでに運動も済ませてしまいたいという生活者のニーズに対応した出店スタイルです。
今後、NSCに出店するフィットネスが増えることが予想されますが、筆者は、これに加え、ドラッグストアにフィットネスが併設されることも増えるのではないかと予想します。
実際、ドラッグユタカ(本社は岐阜県大垣市)やアカカベ(本社は大阪府大東市)の一部店舗には、カーブスが併設されています。
また、バローホールディングスは、ドラッグストアのV・ドラッグと、スポーツクラブのアクトス(プールなどを備えるフルサービス型施設で、ここまで述べてきた軽量なフィットネス・ジムとは異なる業態です)を運営しており、両社の要素を組み合わせたドラッグストアの新しいフォーマットを検討していてもおかしくありません。
この延長線上で、まず考えられるのが、ドラッグストアそのものに軽量なフィットネスを組み込む形です。
案1:ドラッグストア内・隣接型の無人ジム
薬局・調剤の待ち時間や、日用品の買物のついでに、数台のマシンだけを備えた無人ジムコーナーを使ってもらう案です。チョコザップのような省人化運営をそのままドラッグストアの区画に持ち込む形で、カーブス型との親和性も高いと言えます。
さらに、この発想は店舗内のサービスにとどまりません。運動需要とドラッグストアの商品を結び付けることで、物販にも広げることができます。
案2:逆方向の連携 ― フィットネス側にドラッグストアPBを置く
フィットネス施設の店頭に、提携ドラッグストアのプライベートブランド(プロテイン、サプリ、スポーツ用品など)を陳列する案です。フィットネス利用者はまさにその場でニーズが顕在化しているため、コンバージョン率は高いはずです。ドラッグストア側は新たな販路を得ることができ、フィットネス側は物販収益を補完できます。
発想をさらに広げると、店舗づくりだけでなく、不動産や出店戦略にも応用できます。
案3:不動産・出店モデルの応用
ホームセンターとスーパーが同一敷地・隣接区画で出店しやすくする「相互出店モデル」は、郊外型商業施設で増えつつあります。これをドラッグストアとフィットネスにも応用し、区画を分けつつ動線だけ接続する形にすれば、フィットネスのスピーディな出店も可能になり、初期投資も抑えられます。
「スポーツ」という空白地帯
もう一つ、この着想を後押しする視点があります。重冨(2022)は、ドラッグストアを3つのタイプに整理しています【注4】。
- HBC強化型:売上に占めるHBC(医薬品・化粧品)比率が高く、粗利水準も高いタイプです。都市部寄りに出店し、付加価値訴求で収益を確保します(マツモトキヨシ、ココカラファイン、スギ薬局、サンドラッグなど)。
- ディスカウント強化型:食品比率が高く、粗利水準は低いタイプです。郊外に大型店を構え、ローコストオペレーションで稼ぎます(コスモス、ゲンキーなど)。
- 総合型:HBCを核としつつ、郊外中心の立地から最寄品需要も取り込むタイプです。売場面積・粗利ともに中間的で、バランス型の品揃えを取ります(ウエルシア、ツルハ、クスリのアオキなど)。
これら3類型は、いずれも「何を売るか」という商品構成の視点で整理された分類です。しかし「どのような健康を提供するか」という視点で見ると、まだ手つかずの領域が残っています。
業界内で「美容・付加価値」「食品・低価格」「バランス」という軸での差別化競争は激しい一方、「スポーツ」を軸にした明確なポジションを取っているチェーンが見当たらないことに気づきます。ヘルスケアという大きな括りの中に運動・スポーツ用品・スポーツ栄養は本来含まれるはずですが、いずれの型もそこを主戦場にしていません。つまり、3類型を横断して空いている陣地があるのです。
一方でドラッグストアは、全国の生活圏に高密度で出店している数少ない業態でもあります。スポーツ専門店自体が存在しない地域も少なくない中、その空白にドラッグストアが入り込むというシナリオは、単なる健康訴求の延長ではなく、地域インフラの穴を埋める役割として捉え直すこともできます。無人ジムの併設だけでなく、スポーツ用品・部活動で使う消耗品(テーピング、サプリ、シューズケアなど)を扱う売場を持つチェーンが出てくれば、それは「スポーツに強いドラッグストア」という、業界地図にまだ存在しないポジションの獲得になります(部活動の地域移行が進めば、こうした地域単位のスポーツ需要はさらに後押しされるかもしれません)。
ドラッグストアはこれまでも、生活者の需要変化に合わせて取扱分野を広げてきました。薬中心の業態から、化粧品、日用品、そして食品へと、扱うカテゴリーを徐々に拡張してきたラインロビングの歴史があります。その延長線上に「スポーツ」「運動習慣」が加わることは、それほど不自然ではありません。
さらに、この変化は単なる品揃えの拡張にとどまりません。ドラッグストアはこれまで、「健康のための商品」を販売する業態でした。しかしフィットネスを併設すれば、「健康という体験そのもの」を提供する業態へと一歩踏み出すことになります。つまり、商品の販売にとどまらず、健康行動の実践そのものを支える場所へと役割が変わっていくのです。
なぜ「今」なのでしょうか
ここ数年で、この掛け算が機能する以下の条件が出そろってきました。
- ジムの省人化・無人運営のノウハウが確立しました
- 高齢化や医療費抑制の議論から、健康・予防医療への関心が高まっています
- ドラッグストア業界自体が差別化を求めています
- 「スポーツ」という差別化軸がドラッグユタカ業界内で空いています
- 部活動の地域移行という制度変化も、将来的にはスポーツ専門店の空白地域における新たなニーズを後押しするかもしれません
ドラッグストアの次の役割
かつて、「コンビニ×フィットネス」は時代が早すぎて定着しませんでしたが、「ドラッグストア×フィットネス」には健康という文脈の一致、無人ジムの省人運営技術の成熟、既存の先行事例(NSCへのフィットネス出店や、ドラッグユタカやアカカベへのカーブス出店)に加え、ドラッグストア業界内で「スポーツ」という差別化軸がまだ手つかずであるという条件がそろっています。
数年後、「ドラッグストアへ行く」という言葉の意味は、薬や日用品を買うことだけではなくなっているかもしれません。健康のための商品を買う場所から、健康な生活そのものを支える場所へ――そんな進化を遂げるチェーンが現れても、不思議ではないでしょう。
「買物のついでに運動する」という新しい生活動線が当たり前になったとき、ドラッグストアという業態の意味もまた、大きく変わっているのかもしれません。
〈注〉
0.冒頭のアイキャッチ画像は生成AIにより作成したものです(2026年7月27日作成)。
1.RIZAP株式会社「【chocoZAP】国内2,000店舗を突破!本日オープンの6店舗をもって累計2,005店舗へ」2026年7月17日公開、https://rizap.co.jp/news/toDN-dH4(2026年7月27日閲覧)
2.IT media ビジネスオンライン「ファミマがフィットネス事業を売却 1号店オープンから3年で 一定の役割を果たした」2021年1月20日、https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2101/20/news137.html(2026年7月27日)
3.BEHIND THE FITNESS「ファミリーマート コンビニ併設ジム『Fit&GO』事業撤退、運営中の全5店舗をフィットイージーに譲渡」2021年1月19日、https://bthefit.com/news/post-5677(2026年7月27日)
4.ドラッグストアの3類型は、重冨(2022)による分類を参考にしました。
〈参考文献〉
重冨貴子(2022)「ドラッグストア業態の動向と商品構成の変化、および、企業戦略の方向性-ドラッグストア業態の展望と課題-」『流通情報』2022年5月(No.556)
