【連載】数字の裏側にあることに目を向けて③ なぜ在庫のムダは消えないのか? ― ブルウィップ効果とドミナント出店 ―

※本稿は連載記事3本中の3本目です。
[第1回:ヤオコーはなぜ外環道路沿いに店を構えるのか ― 在庫回転期間をひも解く ― は こちら]
[第2回:在庫回転とその背景 ― ヤオコー、オーケー、ドン・キホーテ ― は こちら]
過去2回のコラムで、在庫回転期間という数字から、品ぞろえの特徴から物流まで、企業の戦略が見えてくることを確認しました。
連載の最終回となる本稿では、効率が重視される現代においても、現場では過剰在庫や欠品が繰り返されることに注目します。在庫にまつわる課題の発生理由と、その解決のための切り札ともいうべき重要な戦略についてみていきましょう【注1】。
ムダの連鎖を生み出すブルウィップ効果
ムチを軽く振ると、手元の小さな動きが、先端では大きく増幅されて、しなります。実は、これと同じことが、商品の流れでも起きています。
店舗が欠品を恐れて、少し多めに発注する。
その不安は本部のバイヤーに伝わり、さらに余裕を見て卸に注文する。
卸もまた、余裕を見てメーカーに注文する。
メーカーも、原材料を多めに仕入れる。
現場の小さな「欠品への不安」が、川上に向かうほど増幅され、各段階に過剰在庫として積み上がっていくのです。これを、ムチの動きになぞらえて「ブルウィップ効果」と呼びます。
各段階で需要に対して商品が足りないと、販売機会の損失につながります。機会損失を恐れる気持ちが積み上がり、流通の各段階に過剰在庫を生み出します。
なぜ、外環道路沿いにヤオコーが店を構えるのか?
さて、第1回の冒頭で投げかけた疑問、「なぜヤオコーは外環道路沿いに固まって出店するのか?」に戻りましょう。
ここで「ドミナント出店」について確認しておきます。一般的には、ある地域(面)に集中的に出店する戦略のことで、地域内での認知向上や、物流効率の向上を狙ったものです。ヤオコーがやっているのは、面ではなく「線」のドミナント出店です。市川市内の3店舗は、面的に広がっているわけではなく、外環道路という一本の「動脈」に沿って並んでいます。地域を面で覆うのではなく、幹線道路という線に沿って店舗を連ねることで、同じように物流効率を高めているのです。本稿では、この線上出店も、ドミナント出店の一つの形として扱います。
実際にヤオコーが行っているのは、まさにこの戦略です。特定の地域、あるいは幹線道路沿いに高密度で店舗を展開することで、配送ルートの効率を最大化しているのです。
トラックは市川市内の店舗を短時間で効率的に回るため、各店舗はバックヤードに大量の在庫を抱える必要がなくなります。
ヤオコーが市川市内の立地にこだわったのは、物流という「血管」を地域に密着させ、商品という血液の循環速度を最大化するためだと言えるでしょう。ドミナント出店により、「ブルウィップ効果」というムダの連鎖を抑え込んでいるとも言えます。
売場や商品の裏側に目を向けて
私たちの買物の裏側では、このように膨大な「ムダ」と「効率」の綱引きが毎日繰り広げられています。
在庫回転期間という一見地味な、あるいは近寄りがたいと感じられるかもしれない数字を入口に、業態の品ぞろえの特徴や、物流、出店戦略といった企業の経営、企業の意志に思いを馳せることができます。
「この店は物流を効率化して鮮度を守っているな」
「この店はチェーン全体の効率よりも、個店経営の色が濃いな」
こうした視点で店を眺めてみると、いつもの買物が、売場が、少し違って見えてくるかもしれませんね。小売企業の経営層やバイヤー、売場責任者たちは、日々こうした数字と向き合い、私たちの生活を支えています。
ぜひ明日、見慣れた売場を改めてよく見てください。その店が特に力を入れているカテゴリーは何か。在庫回転期間は短いか、長いか。チェーン店であれば、ドミナント出店をしていて、物流効率が高そうかどうか。
在庫回転期間という数字から企業の戦略を考えた本連載「数字の裏側にあることに目を向けて」は、これで完結です。連載を通じて、数字の裏側に、そして、いつも見慣れた売場や商品の裏側にあるものに目を向けることで、各企業のねらいが浮かび上がってくる、そんな感覚を一緒に味わってもらえたなら幸いです。
〈注〉
1.在庫回転を改善する打ち手は、需要予測の精度向上や発注リードタイムの短縮など、本稿で扱う物流戦略・出店戦略以外にも存在します。本稿では、ヤオコーの事例と関連の深い切り口として、物流とドミナント出店に絞って解説しています。
〈関連記事〉
鈴木雄高「【レポートVol.2】ドミナント戦略の再定義 ― 店舗網から都市型物流インフラへ ―」市川マーケティング研究所(2026年6月30日公開)、https://ichikawa-marketing.com/report-redefining-dominant-strategy/ (2026年7月14日閲覧)
鈴木雄高「ドミナント出店はなぜ強いのか――EC時代に再評価される小売の古典戦略」ecAction(2026年3月17日公開)、https://ecact.jp/dominant-strategy-ec/ (2026年7月14日閲覧)
※本稿は連載記事3本中の3本目です。
[第1回:ヤオコーはなぜ外環道路沿いに店を構えるのか ― 在庫回転期間をひも解く ― は こちら]
[第2回:在庫回転とその背景 ― ヤオコー、オーケー、ドン・キホーテ ― は こちら]

