【コラム】購買プロセスを吸収するAI――Google「Universal cart」とAmazon「Alexa for Shopping」の登場を受けて――

※本稿は、先日公開したレポート(AI仲介型ショッピングがもたらす顧客接点のシフト― Google「Universal Cart」とAmazon「Alexa for Shopping」が示唆する構造変化 ―2026年5月時点の観察と考察)の内容を、コラム用に改変したものです。レポートと併せてお読みください。
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2026年5月13日、Amazonは「Alexa for Shopping」※1を発表し、翌週の5月20日にはGoogleが「Universal Cart」※2という新サービスを打ち出しました。いずれも、AIが消費者の買い物をサポートするサービスです。
両社がAI関連の先進的なサービスを矢継ぎ早に発表すること自体は珍しくなく、市場でも「また一つ便利な機能が登場した」と受け止めた向きが多かったかもしれません。
しかし、私は、これらが単なる利便性向上のための新機能という枠に留まるものではなく、顧客接点の主導権をめぐる競争の激化を意味するものであると捉えています。
2026年6月15日時点で、これらの新サービスの概要について詳しく解説している記事は多く存在するので、ここでは詳述しません(2つの新サービスの簡単な説明は備考に記載します)。本稿では、新サービスが、EC事業者やリアル店舗を持つ小売業者、メーカーの事業に与える影響について考えます。
※注意:冒頭の画像は、Amazon News および Google Blog に掲載されている画像を引用・加工して作成したものです。
目次
AIが「商品の比較・検討・購入」を丸ごと奪いに来ている
Amazonは、音声を入口に購買を代行し始めており、Googleは、検索・YouTube・Gmail・Geminiを横断して買い物情報を吸収しようとしています。
遠くない将来、消費者が個別のECサイトや企業サイトを閲覧する前に、AIが購買プロセスを完結させる、ということが一般的になるかもしれません。もちろん、全ての買い物にAIが介入することはないと思いますが、AIを経由して行われる買い物の比率が高まる可能性は高いと思われます。
EC事業者への影響
EC事業者は、購買プロセスの効率化による機会が生じる可能性があります。
Universal Cartによって購買プロセスの摩擦が低減されることが期待される点を考慮すると、高い購買意欲を持つ消費者を取り込む「間口」が広がると考えられます。
一方でリスクも想定されます。
AIを通じて商品発見から決済までが行われるようになると、消費者はEC事業者のサイトを訪問する必要がなくなります。
これまで、サイトのUI/UX、ブランドの世界観やストーリーで差別化し、サイト訪問者を集めていたEC事業者にとって、その努力が活かされる場が失われるリスクがあります。
また、価格履歴とセール情報追跡の機能が普及すれば、EC事業者に対する値引き圧力が高まるでしょう。消費者が常に「最安値を待つ」心理になると、EC事業者は粗利を確保することが難しくなる可能性があります。
リアル店舗を持つ小売業者への影響
オムニチャネル対応ができる企業は、事業機会が増える可能性があります。
Googleは、在庫情報や、注文商品の店舗での受け取り、会員ポイント、店舗限定オファーなどを連携する仕組みをさせる仕組みを用意しています。来店前の商品検討をGoogleのAIにサポートしてもらい、購入場所としてリアル店舗を選択してもらうことも可能でしょう。
一方、Alexa for Shoppingの定期補充や価格追跡が普及すると、日用品や定番品の購買は、来店前に完結しやすくなります。
特にリスクが大きいと考えられるのは、安さを唯一の武器にしてきた店舗です。
消費者が自ら最安値を調べなくても、今後は、AIが最安値を提示してくれるようになります。これが一般化すると、「安いから」という理由で店舗を利用する動機が失われます。
メーカーへの影響
商品情報の質・量ともに充実しており、整理されている上、「この商品が良い理由」をわかりやすく言語化しているメーカーは、優位に立てる可能性があります。
Googleは「Universal Commerce Protocol」として、「商品Q&A」「互換性情報」「代替品」「関連アクセサリ」といった構造化データの充実を求めています。AIは、これらの情報が整備されている商品を正確に比較・推薦するようになるでしょう。
また、Alexa Shopping の「Buy for Me」機能により、Amazonに出品していなくても、メーカー直販サイトから購入可能になるため、直販の機会が増えるメーカーも出てくると思われます。
一方、ブランド体験の表現機会が減るリスクもあります。
これまでは、パッケージデザイン、棚割、広告、ランディングページなど、様々な場所でブランドの世界観を訴求することができました。しかし、AIが仲介するようになると、情報はAIによって要約・比較され、お薦めランキングなどの形に落とし込まれます。その結果、ブランドの世界観よりも、機能や価格、レビューが購買に影響しやすくなります。
知名度が低い、あるいは差別化を言語化できていないメーカーは、AIにピックアップされづらく、購買機会を得ることが難しくなる可能性があります。
つまり、AIに認識され、比較され、推薦されやすいのは、前述のような構造化されたデータです。企業が伝えたい魅力であっても、AIに理解できる形で表現されていなければ、購買プロセスの中では存在しないのに近い状態になってしまいます。
これまでメーカーは「人に伝わる情報」を磨いてきました。しかし、これからは「AIにも伝わる情報」を整備することも求められるようになります。
加えて、AIによる消費者への推薦の根拠をメーカーが知ることができなければ、顧客理解やマーケティングの主導権を持ちにくくなるという課題も生じます。従来、メーカーのマーケティング部門は、調査やデータ分析を通じて顧客を理解し、それをベースにプロモーションなどを行ってきました。しかし、AIによる推薦根拠が不透明なままでは、メーカーによる顧客理解の精度が下がるリスクがあります。
消費者への影響
消費者は、これらのサービスを利用することで、大きな利便性を享受できるでしょう。
Universal Cartにより、複数のサイトの商品を一つのカートにまとめられ、価格追跡・値下がり通知が自動で行われます。
また、Alexa for Shoppingは音声だけで複雑な検索・購入を代行してくれます。特に定番品や情報過多なカテゴリーの買い物において、時短効果は大きいでしょう。
一方、懸念事項もあります。
「なぜその商品が推薦されたのか」の根拠が見えにくいため、消費者はストレスを感じるかもしれません。
また、AIが価格や既存ユーザーのレビューを過度に重視すると、似た商品ばかりが推薦され、選択肢が狭まるリスク、新商品や未知の商品との出会う機会が減るリスクもあります。
また、音声購買については、セキュリティやプライバシーへの不安も依然として残ります。
流通の主導権は常に「顧客接点を握る者」に移ってきた
歴史を振り返ると、流通の主導権は、
メーカー → 小売 → ECモール
と移ってきました。これが、今後、顧客接点を握るようになる、Universal Cart や Alexa for Shopping のような「AI購買プラットフォーム(仮)」へと移転する可能性があります※3。
主導権が移ると、企業にとって「AIに選ばれるかどうか」も、競争の新たな軸になります。
「AIO(AI Optimization)」が重要になる
これまでは、SEOや広告運用の精度を高めることが重要でした。
AIが消費者の買い物をサポートするようになる時代、重要なのは、AIに理解され、推薦されるための商品情報設計です。
具体的には、
- 構造化データの整備
- Q&Aの体系化
- 互換性・代替品情報の明確化
- レビュー品質の管理
- 使用シーンの言語化
これらは、マーケティング部門だけで完結する話ではなく、製品企画、カスタマーサポート、ITなど、複数の部門にまたがる取り組みです。一見すると情報整備の話に見えます。しかし実態は、経営資源の再配分を迫る、戦略レベルの課題として捉える方が妥当です。
おわりに:企業にはAIがもたらす変化との向き合い方が問われる
今回のAmazonとGoogleの発表を受け、企業が直視すべきは、「AIが顧客接点と購買プロセスを吸収し始めた」という事実です。
この変化は、脅威である以上に、情報設計と顧客理解を本気で見直す好機でもあります。
AIをどう味方につけるか——その問いに、早く向き合った企業ほど、次の時代の主導権を握ることになるでしょう。
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備考・参考文献
〈備考〉
※1:Alexa for Shopping について
Amazonが提供する、音声指示だけで検索・比較・注文まで代行するAIショッピング機能。価格履歴や比較、定期補充、条件付き購入など購買の自動化が進み、「Buy for Me」により、Amazon外のブランド公式サイトでの購入代行も可能になります。2026年5月13日に発表されました。
※2:Universal Cart について
Googleが提供する、検索・YouTube・Gmail・Geminiを横断して買い物情報を一元管理する仕組み。複数サイトの商品をGoogle側の買い物リストに集約し、価格変動・セール・在庫復活などを自動追跡します。比較・検討の前工程をGoogleが吸収する点が特徴で、2026年5月20日の「Google I/O 2026」で発表されました。
※3:Amazon自体もECモールですが、自社AIのAlexaを軸に、買い物をサポートするサービス(ここで「AI購買プラットフォーム(仮)」と呼んでいるもの)を運用することで、引き続き、次世代の流通の主導権も握る可能性がある、というのが2026年5月の情報に基く、筆者の見立てです。
〈参考文献〉
・About Amazon「Meet Alexa for Shopping, your personalized, agentic AI assistant on Amazon」(2026年5月13日公開、2026年6月11日閲覧) https://www.aboutamazon.com/news/retail/alexa-for-shopping-ai-assistant
・About Amazon「How to use Alexa for Shopping to compare products, check price history, auto-buy items at target prices, and more」(2026年5月18日公開、2026年6月11日閲覧)https://www.aboutamazon.com/news/retail/how-to-use-amazon-shopping-ai-assistant
・Google Official Blog「Introducing the Universal Cart and more ways to help you shop」(2026年5月19日公開、2026年6月11日閲覧)https://blog.google/products-and-platforms/products/shopping/google-shopping-cart/
・Google Official Blog「How we're helping retailers thrive with new Universal Commerce Protocol features and AI tools on Google」(2026年5月20日公開、2026年6月11日閲覧)https://blog.google/products-and-platforms/products/shopping/shopping-updates-google-marketing-live/
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【参考】市川マーケティング研究所 レポートシリーズVol.18
Vol.18
AI仲介型ショッピングがもたらす顧客接点のシフト
― Google「Universal Cart」とAmazon「Alexa for Shopping」が示唆する構造変化 ―
2026年5月時点の観察と考察
2026年6月11日
著者:鈴木 雄高(市川マーケティング研究所 代表)
2026年5月にGoogleが発表したUniversal Cartと、Amazonが発表したAlexa for Shoppingは、単なるショッピング支援機能にとどまらず、買い物における顧客接点のあり方を変える可能性を持つ。本稿では、両サービスの機能と今後の発展可能性を整理したうえで、EC事業者、小売業、メーカー、消費者への影響を考察した。今後、消費者の商品探索や比較、購入の一部がAIアシスタントを介して行われる比率が高まれば、企業と顧客との接点は自社サイトや店舗からAIプラットフォーム側へ移行する可能性がある。その結果、価格競争の激化やブランド表現機会の変化が生じる一方、AIに理解・推薦されやすい商品情報設計の重要性が高まると考えられる。本稿は、GoogleとAmazonの発表内容を踏まえ、こうした構造変化の可能性と事業者に求められる対応について考察した。
キーワード:顧客接点、AI仲介型ショッピング、AI購買プラットフォーム、Universal Cart、Alexa for Shopping、AIO(AI Optimization)
目次:
1. はじめに――Google「Universal Cart」とAmazon「Alexa for Shopping」の登場
2. Google 「Universal Cart」とは何か
2-1. 公式発表から確認できる機能
2-2. 将来の拡張可能性
3. Amazon「Alexa for Shopping」とは何か
3-1. 公式発表から確認できる機能
3-2. 将来の拡張可能性
4. 「顧客接点の移転」が意味すること
5. 事業者と消費者に起こりうること
5-1. EC事業者の場合
5-2. リアル店舗を持つ小売業者の場合
5-3. メーカーの場合
5-4. 消費者にとっての変化
6. 事業者が今、備えるべきこと
7. おわりに
