【コラム】AIも発見できない消費者の魔改造——過去の自分との対話から

目次
- 1.はじめに
- 2.企業の思惑とは関係なく勝手に楽しむ消費者
- 3.8年前に想像したアマゾンのねらい
- 4.AIが消費者と企業の間に深く入り込む時代がやってくる
- 5.おわりに:魔改造は止められない/過去の自分との対話
- 〈注〉
- 〈参考文献〉
- 〈関連記事〉
- 【おしらせ】ロングセラー商品の活性化と消費者行動の関係に関するコラムが公開されました
- 【コラム】購買プロセスを吸収するAI――Google「Universal cart」とAmazon「Alexa for Shopping」の登場を受けて――
- 【コラム】「探す力」の壁が壊れるとき――AIが導く、需給の質的マッチング
- 【レポートVol.18】AI仲介型ショッピングがもたらす顧客接点のシフト ― Google「Universal Cart」とAmazon「Alexa for Shopping」が示唆する構造変化 ― 2026年5月時点の観察と考察
- 【レポートVol.19】AI仲介型ショッピングは「発見の民主化」をもたらすのか ― 需要と供給の質的マッチングに関する試論 ―
1.はじめに
最近、10年前、8年前に書いたコラムを読み返しました。どちらも、消費者行動とテクノロジーの変化を題材にしたものです。当時、将来の予想として書いたことのうち、いくつかは、2026年の今、現実のものになりつつあります。
当時の予想や仮説が当たったかどうかは、さほど重要なことではありません。それよりも、AIの爆発的な発展と普及で消費社会そのものが大きく変わろうとしている現在、過去にテクノロジーと消費行動の関係について考えていたことや予想していたことを振り返っておくことが重要だと考えています。
2.企業の思惑とは関係なく勝手に楽しむ消費者
2016年の春、私は「10分どん兵衛」ブームについてのコラムを書きました【注1】。
「10分どん兵衛」は、日清食品のカップ麺「どん兵衛」にお湯を注いで待つ時間を、通常5分のところ、2倍の10分にして食べることで、芸人のマキタスポーツ氏が提唱した食べ方です。当時、SNSを通じて広まり、ブームになっていました。私は、当時のコラムで、これをコミュニケーション消費、エクストリーム・ユーザー、デジタル・マーケティングという三つの視点から読み解きました。
今振り返って最も印象に残っているのは、消費者の能動性です。メーカーが仕掛けたわけでも、インフルエンサーに依頼したわけでもなく、一人の消費者が、自分なりの楽しみ方を見つけ、それをラジオ番組で語り、SNSを通じて「バズった」のです。
これは商品の「魔改造」と呼べるかもしれません。プラモデルを説明書通りに作るだけでなく、別のプラモの部品をくっつけたりするように、消費者は商品を自分の価値観で勝手にカスタマイズします。食の世界でも同じことは起きています。しかも、その多くはSNSに投稿されることなく、誰にも知られずに楽しまれています。
ごはんにマヨネーズをかけて醤油を垂らして混ぜて食べる、背徳感を覚えるけれどおいしい、そんな食べ方を、誰もが一つや二つ持っているのではないでしょうか。ハッシュタグをつけてSNSに投稿されることはほとんどないような食べ方です。きれいな、「映える」写真ではないので、投稿されない、SNS時代にも可視化されていない魔改造チックな食べ方は、AIにも見つかりません。本人は、別に誰かに見せるためにやっているわけではない、秘め事めいたささやかな楽しみ。
企業は、購買データやアンケート調査からは見えてこない、消費者の本音やインサイトを発見するために、グループインタビューやデプスインタビューを行います。消費者は本音を話しますが、羞恥心や自尊心から、あるいは、企業の人にとって重要だとは思えないから、という理由で、話さないこともあります。
また、企業はエスノグラフィ【注2】を行うことで、います。消費者の自然な行動を観察するこの手法は、アンケートやインタビューよりも消費者のインサイトの発見に適しているとも言われます。しかし、「見られている」という意識は完全に消えるわけではありません。観察者がいる場では、人は少しだけ「まともな自分」を演じてしまうため、たとえいつもはしていても(子どもがやったら大人に怒られるような)後ろめたい行動を見せることはないでしょう。
消費者の本音は、企業が把握できる情報の外側に、常に広大に広がっています。「10分どん兵衛」が教えてくれたのは、そのことだったと思います。
3.8年前に想像したアマゾンのねらい
2018年、アマゾン・エコー、すなわちスマートスピーカー(AIスピーカー)についてのコラムを書きました【注3】。
当時、私は我が家にやってきたアレクサに親しみを覚えました。そして、買物リスト機能に、ある可能性を感じたのです。ユーザーがアレクサに話しかけて買物リストに商品を追加するとき、それらには、アマゾンで購入するものだけでなく、スーパーマーケットなどリアル店舗で買う予定の商品も多く含まれるはずです。つまりアマゾンは、自社サイトでの購買計画だけでなく、リアル店舗での購買計画までも把握しようとしているのではないか、と書きました。
そして、こんなシナリオを描きました。アマゾンで購入経験がなく、定期的に買物リストに登録される商品には、アマゾンでのトライアル購入を促すように特別価格を提示する。土曜日の午前中にリストに登録されやすい商品には、金曜日の夜に「おすすめ」を届ける。高齢者は音声入力に親しみやすいため、買物リスト機能を自然に使うようになり、いつのまにかリアル店舗で買っていた商品をアマゾンで買うようになっていく。
コラムの末尾に、このように書きました。
〈これらは、あくまでも私の想像にすぎない。しかし、アマゾンがアレクサの買物リスト機能を通じて、ユーザーの実店舗での購買行動を、たとえ精緻にではなくとも把握するようになれば、実店舗から需要を奪取する動きを一気に加速させることも考えられる。〉(引用)
4.AIが消費者と企業の間に深く入り込む時代がやってくる
2026年5月、アマゾンはユーザーの買物を支援する新しい機能である「Alexa for Shopping」を発表しました。
ユーザーがアレクサに話しかけた内容がアマゾンの買物体験に反映され、逆にアマゾンでの商品閲覧や購入履歴がアレクサ側に反映されるようになります。アレクサとの会話とアマゾンでの購買の双方から、AIがユーザー理解を深めていくのです。価格が目標額まで下がったら自動的にカートに追加する、定期的な日用品を自動で発注するといった支援の他、アマゾン以外のサイトでも代わりに購入する「Buy for Me」機能もあります【注4】。
8年前に「想像にすぎない」と書いたシナリオが、予測を超える形で、間もなく現実になりそうです。
ここで一つの問いが浮かびます。2節で描いた「消費者が勝手に楽しむ世界」と、この「AIが消費者行動を先読みして介入する世界」、どのように共存することになるでしょうか。
ハッシュタグだけでは消費者の本音を引き出せないように、AIもまた、消費者の「見せたい自分」や「整理された行動」しか捉えられない可能性があります。ごはんにマヨネーズをかけて食べるような、誰にも言わない密かな楽しみは、アレクサに話しかけることもなく、静かに続いていきます。バズった消費行動は、各社が飛びつくため、ブームにはなっても、すたれるのも早いです。しかし、AIが把握できるデータの外側には、まだ発見されていない本音の消費行動が広大に広がっています。人知れずそうした消費者のニーズに応え、粛々と消費者のハートをつかみ続ける企業もあるかもしれません。
5.おわりに:魔改造は止められない/過去の自分との対話
この10年で、消費者とテクノロジーの関係は大きく変わりました。しかし、変わらないこともあります。
消費者は、企業やAIが想定しない使い方を、これからも続けるはずです。魔改造は止められません。企業が予想しないような使い方をするエクストリーム・ユーザーは、今も、将来も、必ず存在します。
企業は、AIが取得できるデータの外側にある「静かな消費」「見えない消費」を、どう捉えるべきか。データが増えれば増えるほど、その収集と活用に注力する一方、データに映らないものへの感度を失うリスクがあります。
消費者は、AIに行動を先読みされ、最適な提案を受け取ることの快適さと、自分の行動が把握されることへの違和感を、どう折り合いをつけていくべきでしょうか。
2026年という時代は、後から振り返れば、どんな変化の入口だったと見えるでしょうか。
今回、10年前、8年前の自分の文章を読み返しながら、これを書きました。古い文章を読み返すという行為は、思いのほか発見が多いものです。当時気になっていたのに深掘りしなかったこと、誰かに話しても理解を得られないだろうからと黙っていたこと、そして今も変わらず自分が大切にしている視点。そうしたものが、思いがけず眠っているものですね。
埋もれたエクストリーム・ユーザー的な視点は、案外、過去の自分の中にもいるのかもしれませんね。この文章を読んだことを契機に、ご自身の古いSNSの投稿やノートに書き溜めた古いアイデアを、たまに読み返してみてはいかがでしょうか。
〈注〉
1.鈴木(2016)。
2.エスノグラフィとは、元来は文化人類学の調査手法で、研究者が対象となる人々の生活の場に入り込み、行動を観察する手法。マーケティング・リサーチの分野でも、消費者の実際の行動を把握する目的で用いられている。
3.鈴木(2018)。
4.Amazon(2026)より。
〈参考文献〉
Amazon(2026)「Meet Alexa for Shopping, your personalized, agentic AI assistant on Amazon」About Amazon、2026年5月13日公開、https://www.aboutamazon.com/news/retail/alexa-for-shopping-ai-assistant、2026年6月30日閲覧
鈴木雄高(2016)「『10分どん兵衛』ブームに見る、新しい消費者行動とマーケティング~コミュニケーション消費、エクストリーム・ユーザー、デジタル・マーケティング~」公益財団法人流通経済研究所コラム、2016年3月2日公開(原記事は削除済み、Internet Archiveのキャッシュより)、https://web.archive.org/web/20160308104938/http://www.dei.or.jp/opinion/column/160302.html、2026年6月30日閲覧
鈴木雄高(2018)「アマゾンの実店舗攻略のカギを握るアレクサ」公益財団法人流通経済研究所 コラム、2018年4月24日公開、https://www.dei.or.jp/aboutdei/column/20180424、2026年6月30日閲覧
