【連載】キリン「ブランドアクション」③ ブランドアクションは企業経営を変える ― 続けることが、ブランドをつくる ―

※本稿は連載記事3本中の3本目です。
[第1回:ブランドは「行動する存在」になった ― キリン「一番搾り」「晴れ風」「グッドエール」の取り組み ― は こちら]
[第2回:行動こそが、ブランドの資産になる ― 機能的価値・情緒的価値の先にあるもの ― は こちら]
目次
一度きりでは、意味が半減する
これまで2回にわたって、キリンの「ブランドアクション」を見てきました。企業ではなくブランドが主語になって社会課題に向き合うという発想、そして、その行動がブランドの資産になっていく仕組みです。
こうした活動を考えるとき、忘れてはならないポイントがひとつあります。それは、「続けること」に大きな意味がある、ということです。むしろ、継続することこそが、この取り組みが成功するための条件だと言ってもよいかもしれません。
なぜ、続けることが条件になるのか
社会課題というものは、数か月で解決するようなものではありません。一度だけ寄付をして終わってしまうと、消費者からは「期間限定のキャンペーンだったのか」と受け止められてしまう可能性があります。
一方で、何年も続けていくと、「このブランドは、本当に取り組んでいるのだ」という信頼につながっていきます。
ブランドに対する消費者の認識は、一度の体験ではなく、繰り返しの体験や情報によって少しずつ形づくられていくものです。継続することで、「一番搾りといえば、おいしいビールであり、日本の農業も応援しているブランドだ」というイメージが、時間をかけて定着していきます。
一番搾りが支援している、農作物の気候変動への適応や新品種の開発といったテーマも、短期間で結果が出るものではありません。長い歳月を必要とするものです。ブランドから継続的な資金や支援があることで、現場の取り組みも安定して進めやすくなります。
続けることで、社内にも変化が生まれる
継続という行為は、社内にも影響を及ぼします。
毎年続く活動になると、営業、開発、広報など、さまざまな部門が「ブランドアクションがあること」を前提に、自分たちの仕事を考えるようになります。ブランドが掲げている理念が、少しずつ企業文化として根付いていく効果も期待できます。
支援した農家がどれくらいの件数になったか、開発した品種がどのくらい普及したか、収穫量がどう変わったか、こうした成果を積み重ねて示していくことも、ブランドの説得力を高めていくうえで欠かせない作業になります。
「継続」だけでは足りない
ただし、継続さえしていれば良い、というわけでもありません。毎年同じことを繰り返しているだけでは、話題性はどうしても薄れていきます。
そこで必要になってくるのが、次のような展開です。
- 支援する対象を広げていく
- 成果をわかりやすく発信していく
- 消費者が参加できる仕組みを増やしていく
- 新たに出てきた社会課題にも対応していく
「継続」させながら「発展」させることによって、ブランドアクションのような活動を、一過性のキャンペーンで終わらせず、ブランドそのものを資産として育てていくことができるでしょう。
大企業だからできること/中小企業だからできること
こうした取り組みは、キリンのような業界トップクラスの大企業だからこそ実現できている面があります。
年間数千万円から数億円規模の投資を継続できること。商品の売り上げと寄付を結びつけても、事業として無理なく成立させやすいこと。大学や研究機関、行政、生産者団体など、多様な相手と連携できること。全国規模の広告や店頭展開で、多くの消費者に活動を知ってもらえること。これらは、大企業ならではの強みです。
では、中小企業には縁のない話かというと、そうではありません。中小企業には中小企業なりの、地域性や専門性を生かした活動の形があります【注1】。
たとえば、次のような取り組みが考えられます。
- 地元の農家と契約栽培を行う
- 売上の一部を地域の環境保全活動に充てる
- 地域のフードバンク団体と提携してフードロスの削減に取り組む
- 地域の障害者就労支援施設と一緒に商品開発を行う
- 地元の祭りや文化を毎年継続して支援する
- 地域の文化芸術活動を応援したり、共同でイベントを開催したりする
金額の規模では大企業に及ばなくても、「ブランドらしさ」や「その企業らしさ」【注2】がきちんと伝わるものであれば、十分にブランド価値の向上につながっていくはずです。
「必然性」が問われる
ここで、もうひとつ大切な視点があります。それは、「ブランドと社会課題の結びつきに、必然性があるかどうか」ということです。
ビール会社が農業を支援する。食品メーカーが食育を支援する。スポーツ用品メーカーが子どもの運動機会を増やす。建設会社が地域の防災力向上に取り組む。
こうした組み合わせは、事業との関連性が高く、「なぜこの会社が、この課題に取り組んでいるのか」が消費者にとって理解しやすいものです。
逆に言えば、どれほど大きな資金を投じたとしても、本業との関わりが見えにくい活動は、ブランド価値にはつながりにくいことがあります。話題としては一瞬盛り上がっても、「なぜこの会社が」という違和感が残ってしまえば、長続きはしにくいものです。
ブランドアクションは、経営そのものと重なっていく
近年、業界を代表するような企業には、「良い商品をつくる」ということだけでなく、気候変動や資源循環、地域社会といった課題の解決にも、一定の役割を果たすことが期待されるようになってきています。
そう考えると、キリンのような企業にとってのブランドアクションは、単なる社会貢献活動というよりも、ブランド戦略、経営戦略、そしてサステナビリティ戦略を、ひとつに重ね合わせた取り組みだと位置づけることができそうです。
一方で、中小企業が、大企業とまったく同じ規模のことを目指す必要はありません。むしろ、自社の規模、地域との関係、そして本業の強みを生かした、「小さくても続けられる活動」の方が、かえって説得力を持つ場合も多いのではないでしょうか。
おわりに
3回にわたって、キリンの「ブランドアクション」を入り口に、ブランドのあり方について考えてきました。
ブランドは、もはや名前やロゴだけの存在ではありません。行動を通じて社会と関わり、その積み重ねによって、消費者からの信頼を少しずつ築いていく。そんな時代に入りつつあるのかもしれません。
企業の規模を問わず、「自分たちのブランドは、どんな社会課題と、どんな必然性を持って向き合えるだろうか」。そう考えてみること自体が、これからのブランドづくりの、ひとつの出発点になるように思います。
〈注〉
1.中小企業の場合は、特定の商品ブランド(プロダクト・ブランド)はもちろんですが、企業ブランド(コーポレート・ブランド)の「らしさ」と親和性・関連性の高い社会課題に取り組む活動にも大きな意義があります。
2.「企業らしさ」については、「企業となり」という造語を用いて解説した記事(鈴木 2026)が参考になります。
〈参考文献〉
キリン「一番搾りACTION」https://ichiban.kirin.co.jp/ (2026年7月3日閲覧)
キリン「晴れ風ACTION」https://harekaze.kirin.co.jp/hanabi/ (2026年7月3日閲覧)
キリン株式会社「まったく新しいキリンビールはじまる。 未来に向けた、次世代定番ビール『キリングッドエール』誕生」ニュースリリース、2025年9月22日公開、https://www.kirinholdings.com/jp/newsroom/release/2025/0922_01.pdf (2026年7月3日閲覧)
鈴木雄高(2026)「有隣堂の『店舗×EC×YouTube戦略』|縮小市場で勝つ理由」『ecAction』(2026年1月20日)、https://ecact.jp/yurindo-ec/ (2026年7月3日閲覧)
※本稿は連載記事3本中の3本目です。
[第1回:ブランドは「行動する存在」になった ― キリン「一番搾り」「晴れ風」「グッドエール」の取り組み ― は こちら]
[第2回:行動こそが、ブランドの資産になる ― 機能的価値・情緒的価値の先にあるもの ― は こちら]
