【連載】キリン「ブランドアクション」① ブランドは「行動する存在」になった ― 「一番搾り」「晴れ風」「グッドエール」の取り組み ―

※本稿は連載記事3本中の1本目です。
[第2回:行動こそが、ブランドの資産になる ― 機能的価値・情緒的価値の先にあるもの ― は こちら]
[第3回:ブランドアクションは企業経営を変える ― 続けることが、ブランドをつくる ― は こちら]
ビールを買うことが、誰かを支えることになる
今、キリンが、面白い取り組みをしています。
ビールの主力ブランドの「一番搾り」では、売上の一部を農作物の生産者を支援するために使う方針を打ち出しました。販売本数に連動して寄付の総額を決め、全国の生産に携わる人たちに届けるという仕組みです。
「晴れ風」では、お花見や花火大会といった、ビールを楽しむ場そのものに注目しました。桜並木や花火大会を守るため、売上の一部を全国の自治体に寄付しています。専用のコインを使って、消費者自身が寄付に参加することもできます。
2025年に登場した「グッドエール」も同様です。地域のコミュニティを元気にする活動を、47都道府県の自治体と連携しながら進めています。缶の裏の二次元コードから専用サイトにアクセスし、応援したい自治体を自分で選んで寄付できるという仕組みも用意されています。
これらは、キリンが「ブランドアクション」と呼んでいる活動です。
「企業」ではなく「ブランド」が主語の活動
これまでも、社会貢献に力を入れる企業は数多くありました。会社として寄付をしたり、商品の売上の一部を寄付するキャンペーンを期間限定で行うかたちが一般的です。
しかし、キリンの取り組みは少し違います。
「キリンという会社」が主語になっているのではなく、「一番搾り」「晴れ風」「グッドエール」という、それぞれのブランドが主語になっているのです。しかも、ひとつのテーマにまとめるのではなく、ブランドごとに異なる社会課題と結びついています。
一番搾りは生産者支援、晴れ風は季節行事や生活に根付いた文化の保全、グッドエールは地域コミュニティの活性化――それぞれのブランドが、それぞれの個性に合ったテーマを選んでいるように見えます。
なぜ、こんな設計になっているのでしょうか。
ブランドが自分の意思で動き出す
かつて、ブランドは、「名前」や「ロゴ」のようなものでした。やがて、消費者の頭の中に特定の「イメージ」を作り上げるものへと役割が広がっていき、「おいしい」「かっこいい」「信頼できる」といった印象を積み重ねていく存在になりました。
そして、今、さらに先に進もうとしているように見えます。
それは、ブランドが「自ら考え、行動する主体」になる、という段階です。こう書くと、奇妙に思われる向きもあるかもしれませんが、一番搾りを通じた生産者の支援を、単なる企業の社会貢献ではなく、「一番搾りというブランドが、農業を応援するという意思を持っている」と捉えることができます。ブランドひとつひとつが、まるで人格を持っているかのように、それぞれの立場で社会と関わろうとしているのです。
複数のブランドがそれぞれ異なるテーマに取り組めば、当然、ブランドごとの個性はより際立っていきます。「一番搾りらしさ」「晴れ風らしさ」「グッドエールらしさ」が、味や広告だけでなく、行動そのものによって形づくられていくわけです。
会社の中の色々な部門がつながっていく
もうひとつ、興味深い点があります。
会社全体としての社会貢献活動は、どうしてもマーケティングの現場から少し距離のあるものになりがちです。総務や広報が主導し、日々商品を作ったり売ったりしている現場からは、やや遠い出来事に感じられることもあるかもしれません。
それが、ブランド単位の取り組みになると、話が変わってきます。
ブランドマネージャーも、商品開発の担当者も、営業も、広報も、広告制作に関わる人たちも、みな「このブランドが、社会とどう関わっているか」という同じストーリーの中で仕事をすることになります。
つまり、「ブランドを育てること」と「社会課題に取り組むこと」が、別々の仕事ではなく、ひとつの活動として重なっていくのです。
次回へ
本稿では、一番搾り、晴れ風、グッドエールといった、個別のブランドが、それぞれの物語をもって社会課題と向き合おうとしているという、新しいブランドのあり方を見てきました。
こうした動きは、マーケティングの理論としてはどのように説明できるでしょうか。次回は、パーパスやコーズ・マーケティングといった考え方を手がかりに、「なぜ、行動することがブランドにとって価値になるのか」を整理していきます。
〈参考文献〉
キリン「一番搾りACTION」https://ichiban.kirin.co.jp/ (2026年7月3日閲覧)
キリン「晴れ風ACTION」https://harekaze.kirin.co.jp/hanabi/ (2026年7月3日閲覧)
キリン株式会社「まったく新しいキリンビールはじまる。 未来に向けた、次世代定番ビール『キリングッドエール』誕生」ニュースリリース、2025年9月22日公開、https://www.kirinholdings.com/jp/newsroom/release/2025/0922_01.pdf (2026年7月3日閲覧)
※本稿は連載記事3本中の1本目です。
[第2回:行動こそが、ブランドの資産になる ― 機能的価値・情緒的価値の先にあるもの ― は こちら]
[第3回:ブランドアクションは企業経営を変える ― 続けることが、ブランドをつくる ― は こちら]

