【レポートVol.17】ロングセラー商品の再活性化をめぐる試論 ― 設計された意味と生活文脈の衝突 ―

鈴木 雄高(市川マーケティング研究所 代表)
初版公開(PDF):2026年5月11日
Web版公開:2026年7月28日

要旨
本稿は、ロングセラー商品が停滞を打破し、再び市場で存在感を高めるメカニズムを、「設計された意味」と「生活文脈」の衝突という視点から考察する試論である。事例分析を通じて、再活性化の契機は企業の設計図の内側ではなく、消費者が生活の文脈において独自に書き換えた意味の中にこそ生まれることを提示する。この「意味の書き換え」には、消費者の先行を企業が追認する経路と、企業が生活文脈の変化を先読みし自ら再定義する経路の二つのパターンが存在する。さらに、SNS時代における消費者の能動的な意味創出が、企業とのあいだに共創的な対話を促し、ブランドの在り方をいかに変容させているかを論じる。

キーワード:設計された意味/生活文脈、意味の書き換え、消費者起点と企業起点、文脈探索、ロングセラー商品の再活性化

1.はじめに

長く愛される商品には、二つの顔がある。一つは、時代を超えた信頼という強みである。もう一つは、その信頼がいつしか「こういうものだ」という固定観念を生み、変化への感度を鈍らせるリスクである。もちろん、すべてのロングセラーが固定化に陥るわけではない。しかし、市場環境や消費者の生活文脈が変化する中で、かつての「正しい使い方」が通用しなくなる局面は、どのブランドにも訪れうる。

では、そうした局面を乗り越え、なぜ一部のブランドだけが、停滞を超えて再び市場で存在感を高められるのか。

本稿の仮説は、「再活性化の鍵は企業の設計図の中ではなく、消費者が生活の文脈において独自に書き換えた意味の中にある」というものである。本稿では5つの事例を通じて、この仮説を検討したい。

2.「設計された意味」の限界と消費者の独自解釈

企業は商品を緻密に設計する。ターゲット層、使用シーン、機能的便益は、開発段階で定義され、広告やパッケージを通じて市場に伝達される。しかし消費者は、必ずしも企業の設計図通りに受け取るわけではない。そして時に、意図的に誤読することで、企業が気づかなかった意味を発見する。

消費者は自身の生活における不便や欲求に照らし合わせ、商品を独自に最適化する。その結果、設計と実態の乖離が生まれ、これが再活性化の契機となる。しかし企業にとって、こうした「意味の書き換え」を受け入れることは容易ではない。ブランドイメージを統制したいという組織の志向が働くためである。それでも、こうした事象を「発見」へと転換できた企業は、消費者の行動を「誤用」ではなく「手がかり」として読み替える姿勢を持っていた。既存の枠組みに固執しない姿勢が、ブランドの再活性化を可能にしたと考えられる。

3.書き換えの二つの経路――消費者起点と企業起点

意味の書き換えには、二つの経路が存在する。

一つは、消費者が先行して意味を書き換え、企業がその実態を把握して追認する経路である。「サントリー天然水」の事例がこれに該当する。同ブランドの1リットルペットボトルは「家庭での備蓄用」として設計されていたが、消費者調査によって、鞄に入れて外出先で飲むという想定外の使い方が確認された1。これを受けて同社は、容器形状をスリム化し、じか飲みしても違和感のないデザインへと刷新した。消費者が先に意味を書き換え、企業がその書き換えを公式化した事例である。この経路において企業に求められるのは、消費者の微細な行動変化を捉える観察力と、迅速な意思決定である。

もう一つは、消費者の生活文脈の変化を企業が先読みし、自ら意味を再定義する経路である。花王のシャンプー「メリット」の事例がその典型である。1970年の発売当初、「フケ・かゆみを防ぐ」という機能は消費者のニーズに合致していた。しかし洗髪頻度が週2回から週5〜6回へと変化するにつれ、その機能的価値は相対化された。2001年の大幅リニューアルでは、「家族のための地肌ケア」へとブランドの定義を根本から刷新した2。注目すべきは、過去の成功モデルを自ら否定した点である。特定の機能的優位性を手放し、より汎用的な「家族の日常」という領域へシフトする決断は、ブランドのアイデンティティを再構築する戦略的な転換であった。消費者の行動が顕在化していない段階で自ら変化した点で、深い洞察に基づく再活性化の事例といえる。この経路において企業に求められるのは、消費者の生活文脈の変化を先読みする感度である。

経路は違っても、出発点はいずれも消費者の生活文脈にある。

4.文化による「象徴的価値」の書き換え

第3節で見た書き換えは、主に商品の「使用シーン」に関わるものだった。しかし書き換えには、もう一つの次元がある。消費者の心理的・社会的な文脈に根ざした「象徴的価値」の書き換えである。使い方が変わるのではなく、その商品が何を意味するかが変わる。この次元の書き換えは、機能的な改良では生まれない。

ネスレのチョコレート菓子「キットカット」は、九州地方の語呂合わせという偶発的な文化事象を起点に、受験の「お守り」としての象徴的価値を獲得した。一つの小売店舗の店頭プロモーションから始まったこの転換は、消費者の心理的文脈に適合したことで全国的な広がりへと発展した。もともとキットカットは大袋のお買い得商品として販売されることも多く、ブランド価値の希薄化が課題だった。「お守り」という象徴的な意味を獲得したことで、価格訴求とは異なる文脈での価値が生まれた3

ロッテのチョコレート「ガーナ」の事例も同様の構造を持つ。「赤いパッケージを母の日のカーネーションに重ねる」という社員の着想が、菓子というカテゴリーを「感謝を伝える贈り物」という文化的文脈に接続した。消費者の既存の慣習(母の日に赤いものを贈る)を読み取り、ブランドをその文脈に適合させた結果である4

これらの事例に共通するのは、商品の機能そのものは変わっていない点である。変わったのは、消費者がその商品に付与する意味であり、商品が置かれる社会的・文化的な文脈である。機能的な改良なしに、意味の書き換えだけで新たな需要が生まれうることを、これらの事例は示している。

5.意思決定の民主化と「10分どん兵衛」の衝撃

ここまで見てきた事例では、消費者による意味の書き換えは、企業が「把握して追認する」あるいは「先読みして対応する」という構図で描かれてきた。しかし次の事例は、その構図を超えている。消費者の書き換えがもはや企業が管理すべき現象にとどまらず、企業と消費者の共創的な対話へと質的に転換する局面を示している。

象徴的な事例が、日清食品「どん兵衛」である。

大半の消費者は、メーカーが規定した「熱湯を注ぎ5分待つ」という調理法を、疑う余地のない標準として受容する。しかし、芸人のマキタスポーツ氏は、これに囚われることなく「10分待つ」という独自の解を提示した5。このことは、消費の主導権が使い手の手に渡ったことを象徴している。かつては企業が情報の発信源として、商品の意味を一方的に規定していたが、現在はソーシャルメディア(SNS6)を通じて個人の発見が可視化・共有され、新たな消費文化として定着する環境にある。

「10分どん兵衛」の拡散は、消費者が単に「味」を求めただけでなく、「メーカーの規定を超えて楽しむ」というプロセス自体に価値を見出したことによるものである。製品は単なる消費財であることを超え、コミュニケーションの素材へと変容した7

これに対する日清食品の対応は示唆に富む。ブランドマネージャーが「10分どん兵衛を把握していなかった」と謝罪するコンテンツを公開したことは、消費者が創出した意味を企業が公式に認めたことを示している8。この対応は、ブランドへの親近感を醸成し、消費者のエンゲージメントを高める結果となった。

消費者が企業の想定を超える文脈を創出するこうした環境では、行動観察やソーシャルリスニングを、単なる手法としてではなく、消費者の主権を理解するための「文脈探索の手段」として再定義し、活用していく必要がある。

6.実務への示唆――「兆しの発見」としてのマーケティング

ロングセラー商品の再活性化の源泉は、多くの場合、企業の想定外の領域に存在する。マーケティングリサーチとして王道の手法であるアンケートの回答結果だけでなく、自由回答に現れる特殊な用途、購買データからは見えない生活の文脈、あるいはSNS上で散見される「誤用」や「自己流の工夫」の中にこそ、次の成長の種が隠されている。

7.おわりに

企業が設計した論理の内側だけからは、再活性化は生まれにくい。消費者が生活の文脈において商品を再解釈した瞬間、あるいはその変化を企業が敏感に察知した瞬間に、ブランドは新たな活力を得る。

優れたマーケターは、定義した意味を消費者に強要するのではなく、消費者が生み出す「独自の文脈」を冷静に観察し、それを面白がる姿勢を持っている。どん兵衛の事例が示すように、消費者の書き換えを「誤用」と切り捨てず「発見」として受容したとき、ブランドは真の持続性を獲得する。

ブランドが長期にわたって存続するためには、時に設計図を離れ、消費者の現実の中に新しい価値を見出しに行く謙虚な姿勢が不可欠である。SNSを通じて個人の試行錯誤が可視化される現代では、企業の想像の外にある価値が、かつてないほど明るみに出やすくなっている。

〈注〉

1.日経MJ(2025)参照。

2.日経デザイン編(2016)参照。

3.九州地方で「きっと勝つ」ことを「きっと勝っとう」と言うことから、「キットカット」は語呂合わせでゲンの良い商品だと思われていたという。同地方のスーパーマーケットが販促を行うために、ネスレに対して店頭POPを作ってほしいと要望したことが契機となり、地域の店頭POPだけに留まらず、会社を挙げた全国キャンペーンに発展していった(石井、2009)。

4.広告朝日(2008)参照。

5.マキタスポーツ(2015)参照。

6.本来、SNSは「ネットワーク(繋がりの構築)」に主眼を置いた概念であり、情報の拡散を主体とする「ソーシャルメディア」とは区別されることもあるが、本稿では日本における慣用的な用法に従い、両者を包含する概念としてSNSという表記を用いる。

7.鈴木(2016)は、「スマートフォンの普及やSNS利用者の増加などを背景に、コンテンツそのもの以上にコミュニケーションという行為が消費される現在は、コミュニケーション消費の時代とも言われるが、『10分どん兵衛』は、コミュニケーション消費の格好のネタになったことでブームになったと考えられる」と述べている。ここで指摘された「コミュニケーションのネタ」としての消費は、消費者が自ら商品の意味を書き換え、発信する「主導権の移行」を示す象徴的な事象であったといえる。

8.日清食品株式会社(2015)参照。なお、話題となってから10年以上が経過した2026年5月現在、「10分どん兵衛」は同社のウェブサイトでアレンジレシピのひとつとして紹介されている(日清食品グループ、n.d.)。ひとりのエクストリーム・ユーザーの発信が、一過性のバズに留まらず、消費者の手によって更新された「商品の新しい意味」として定着したのである。

〈参考文献〉

石井淳蔵(2009)『ビジネス・インサイト』岩波書店。

広告朝日(2008)「店頭から始まった大型キャンペーン『母の日に真っ赤なガーナ』を文化に」2008年7月1日、https://adv.asahi.com/series/campaign/11052640(2026年5月8日閲覧)。

サントリー食品インターナショナル(2024)「『サントリー天然水』1Lペットボトルの容器形状を刷新」ニュースリリース、2024年5月14日、https://www.suntory.co.jp/softdrink/news/pr/article/SBF1481.html(2026年5月8日閲覧)。

鈴木雄高(2016)「『10分どん兵衛』ブームに見る、新しい消費者行動とマーケティング~コミュニケーション消費、エクストリーム・ユーザー、デジタル・マーケティング~」公益財団法人流通経済研究所コラム、2016年3月2日、https://web.archive.org/web/20160308104938/http://www.dei.or.jp/opinion/column/160302.html(2026年5月8日閲覧、Wayback Machineによるアーカイブ)。

日経デザイン編(2016)『ロングセラーパッケージ大全』日経BP社。

日経MJ(2025)「サントリー天然水1リットル、販売1.5倍」2025年2月14日、11面。

日清食品株式会社(2015)「どん兵衛公式Xアカウントによる投稿」2015年12月18日、https://x.com/donbei_jp/status/677677304244473862(2026年5月8日閲覧)。

日清食品グループ(n.d.)「アレンジレシピ 10分どん兵衛」https://www.nissin.com/jp/product/recipes/359/(2026年5月8日閲覧)。

マキタスポーツ(2015)「話題の“10分どん兵衛”」マキタスポーツオフィシャルブログ、2015年11月16日、https://ameblo.jp/makita-sports/entry-12096226444.html(2026年5月8日閲覧)。

【PDF版レポート】