【レポートVol.15】競合店閉店時の新規顧客獲得を考える ― ダイエーいちかわコルトンプラザ店閉店事例から ―

鈴木 雄高(市川マーケティング研究所 代表)
初版公開(PDF):2026年4月29日
Web版公開:2026年7月24日

要旨
本稿は、ダイエーいちかわコルトンプラザ店の閉店に伴う約2か月半の店舗不在期間を事例として、競合店が閉店・休業した際の周辺店舗の新規顧客獲得機会を検討する。消費者の店舗選択は習慣的であり、一旦形成されるとスイッチングには一定のコストが伴うが、競合店の退場により、これら習慣が一時的に断裂し、新たな「いつもの店」の選択局面が訪れる。しかし、周辺スーパーマーケットを観察したところ、この好機を活かすための初回来店者向け施策(売場案内、会員登録、説明知識の活用など)はほとんど展開されていなかった。理論的視点(習慣・スイッチングコスト・サービススケープ)と現場観察を結びつけて、チェーン本部と店舗が協働し、「競合店がいない期間」を、単なる一時的な売上増加以上に、新しい顧客を定着させるチャンスとして活用する必要性を指摘する。

キーワード:新規顧客獲得、競合店閉店、顧客定着、習慣的購買、スイッチングコスト、サービススケープ

1.はじめに

小売業において、近隣の競合店が閉店したり、改装などに伴い一定期間営業を停止する状況は、自店にとって新規顧客を獲得する好機である。特に、日常的な食料品の購買を担うスーパーマーケットにおいては、競合店の不在期間に行き場を失った顧客の受け皿となりやすい。しかし、この好機が実際に活かされているのだろうか。

本稿では、2025年8月末に閉店したダイエーいちかわコルトンプラザ店とその周辺店舗の実態を通じて、競合店閉店時における小売店舗の対応を報告し、実務への提言を行う。

なお、本稿は、筆者による店舗観察および店舗立地調査に基づく探索的考察である。

2.事例の概要

2025年8月31日、ダイエーいちかわコルトンプラザ店が閉店した。同店は、ショッピングセンター「ニッケコルトンプラザ」1の核テナントであり、食品、日用品、衣料品などを扱う総合スーパー業態であった。また、ダイエーの旗艦店でもあった2。閉店後、跡地にはイオンリテールの店舗(以下、新店)がオープンすることが決まっていたが、閉店時点ではオープン日は未定であった。後に11月15日のオープンが発表され3、結果として約2か月半の空白期間が生まれた。

この空白期間において、ダイエーを日常的に利用していた消費者は、別の店舗で買物をするか、ネット通販や生協宅配を利用するか、あるいは外食やデリバリーサービスへと行動を変えることが予想された。しかし、最も多いと推察されたのは、他のスーパーマーケット店舗へと買物先を変更する行動である。

筆者は、ダイエー閉店の3日後に、周辺のスーパーマーケット店舗の立地を調査した。ダイエー(コルトンプラザの下総中山駅側出入口)から1km圏内には、西友下総中山店のみが存在し、1〜2km圏内には、マルエツ下総中山店、西友本八幡店、コープ市川店など、15店舗が立地していた4。これらの店舗は、ダイエー閉店によって行き場を失った顧客の受け皿となりうる位置にあった。

3.理論的視座――習慣とスイッチング

消費者の店舗選択行動は、しばしば習慣に基づいている。Wood & Neal(2009)は、習慣とは、特定の文脈において自動的に発動される行動パターンであり、意識的な意思決定を伴わないと指摘している。日常的な食料品の購買は、まさにこの習慣的購買行動の典型である。消費者は、毎回すべての選択肢を比較検討するのではなく、「いつもの店」で買物をする。

この習慣が一旦形成されると、他店への切り替え(スイッチング)には心理的・物理的なコストが伴う。Burnham et al.(2003)は、スイッチングコストを、手続き的コスト(新しい店の売場配置を覚える手間など)、経済的コスト(会員特典の喪失など)、関係的コスト(馴染みの店員との関係など)に分類した。これらのコストが高いほど、消費者は現在の店舗に留まりやすい。

しかし、競合店の閉店は、この状況を一変させる。顧客は、望む・望まざるに関わらず、強制的にスイッチングを迫られる。この時、顧客は新たな「いつもの店」を探索し、試行し、やがて新たな習慣になる。この過渡期が、周辺店舗にとって新規顧客を獲得する好機である。

重要なのは、一度来店してもらい、好印象を与えることである。Bitner(1992)は、サービス環境(servicescape)が顧客の感情や行動に影響を与えることを示した。初回来店時の体験が良好であれば、再来店の可能性は高まり、やがて新たな習慣になる。逆に、初回来店時に不便や不快を感じれば、二度と来店しない可能性もある。

4.観察された現状――施策の不在

筆者は、ダイエー閉店翌日に、西友本八幡店を訪れた。来店したのが夕食の準備前にあたる夕方だったこともあるだろうが、有人レジ・無人レジともに待ち行列が非常に長かった。これは、ダイエー閉店によって行き場を失った顧客の一部が、同店に流入していた可能性をうかがわせる。

その後、筆者は空白期間中に、受け皿候補として有力と思われた西友下総中山店、マルエツ下総中山店、西友本八幡店などを複数回訪れた。しかし、これらの店舗において、初めて来店する顧客を迎え入れる取り組みは、ほとんど見られなかった。
筆者が複数回訪店した限りでは、以下のような施策は見られなかった。

・売場マップの配布や掲出の強化
・会員登録キャンペーンの実施
・初来店者向けの案内やサポート体制の充実
・「ダイエー閉店でお困りの方へ」といった訴求

つまり、この好機に、周辺店舗は積極的な新規顧客獲得施策を展開していなかったのである。

5.なぜ好機は活かされなかったのか

この状況には、いくつかの要因が考えられる。

まず、チェーン店舗における意思決定構造の問題である。多くのスーパーマーケットチェーンでは、店舗レベルでの独自施策の実施には本部の承認が必要である。競合店の閉店という特定地域の突発的な出来事に対して、現場が機動的に対応することは、組織の仕組み上、難しいと考えられる。

次に、競合動向の把握と分析の不足である。ダイエーの閉店情報は事前に公表されていたが、それが周辺店舗にとってどれほどの需要獲得機会であるかを定量的に評価し、具体的な施策につなげる仕組みがなかったと思われる。

また、短期的な売上増加と長期的な顧客獲得の違いに対する認識不足もあるだろう。空白期間中、周辺店舗には自然と客足が増える。しかし、何もしなければ、新店オープン後にその需要は失われる。一時的な売上増加を「棚ぼた」として受け取るだけでなく、初来店者を恒久的な顧客に転換するための積極的施策が必要であったはずだ。

6.提言――店舗と本部での対応

競合店閉店時における新規顧客獲得のためには、次のような施策が効果的である。

店舗レベルでの対応:
・初来店者向けの売場案内の充実(大判の売場マップの掲出、主要カテゴリーの位置表示)
・店員による積極的な声かけと案内
・会員登録の促進(臨時の登録ブースの設置など)
・推奨商品やプライベートブランド商品の訴求強化
・ソーシャルメディアを活用した来店促進

本部レベルでの支援:
・競合店動向のモニタリング体制の構築
・店舗への迅速な情報共有と施策の提案
・臨時キャンペーン予算の配分
・現場への一定の裁量権の委譲

特に重要なのは、タイミングである。競合店閉店直後から施策を展開し、空白期間全体を通じて継続的に取り組むことで、「試しに来た客」を「リピーター」に転換しやすくなる。

7.おわりに

本稿では、ダイエーいちかわコルトンプラザ店の閉店事例を通じて、競合店閉店時における周辺店舗の対応の実態を報告した。観察の結果、この「またとない好機」が、十分に活かされていないことがうかがえた。

消費者の習慣的購買行動は強固であるが、競合店の閉店や営業停止という外的要因によって強制的に中断される。この過渡期に適切な施策を講じることで、一時的な需要の取り込みだけでなく、長期的な顧客ロイヤルティを築くことができる。そのためには、チェーン本部によるサポートと、店舗現場での機動的対応の両立が不可欠である。

今後、実際の顧客流動データや売上データを用いた定量的な検証が望まれる。また、新店オープン後の顧客の行動変化を追跡することで、本稿で提示した考察の妥当性を検証することができるだろう。

〈注〉

1.千葉県市川市鬼高のショッピングセンターで、日本毛織の中山工場跡地に、1988年11月25日にオープンした。近隣駅は、鬼越駅(京成線)、下総中山駅(JR総武線)、本八幡駅(JR総武線、都営新宿線)など。

2.日本食糧新聞(2025)参照。

3.2025年10月24日にイオンリテール株式会社(2025)で新店「イオンスタイル市川コルトンプラザ」が同年11月15日にオープンすることが発表された。

4.各店舗名およびダイエーからの距離は以下の通り。①下総中山駅方面(西友下総中山店(750m)、マルエツ下総中山店(1.0km)、アイサダ(1.1km)、マルエツ東中山店(1.6km));②本八幡駅方面(西友本八幡店(1.2km)、クイーンズ伊勢丹本八幡店(1.2km)、MEGAドン・キホーテ本八幡店(1.2km)、まいばすけっと本八幡駅前店(1.3km)、オーケー本八幡店(1.4km)、カスミフードスクエア本八幡店(1.4km)、ダイエー市川大和田店(1.7km));③産業道路・京葉道路方面(コープ市川店(1.0km)、スーパーベルクス(1.1km)、ヤオコー市川田尻店(1.2km)、オーケー市川田尻店(1.4km));④その他(ワイズマート北方店(1.2km))。距離はGoogleマップで確認した。なお、生鮮を扱っているコンビニエンスストアや、スーパーマーケットであっても生鮮を扱っていない店舗は対象外とした。

〈参考文献〉

イオンリテール株式会社(2025)「子育てファミリーを応援する商品・サービスを拡充 11/15(土)『イオンスタイル市川コルトンプラザ』オープン」2025年10月24日 https://www.aeonretail.jp/pdf/251024R_2.pdf (2026年4月29日閲覧)

日本食糧新聞(2025)「『イオンスタイル市川コルトンプラザ』開設 ダイエー旗艦店継承 精肉強化モデル要素導入」2025年11月21日, https://news.nissyoku.co.jp/news/miyagawa20251117044518558 (2026年4月29日閲覧)

Bitner, M. J. (1992). Servicescapes: The Impact of Physical Surroundings on Customers and Employees. Journal of Marketing, 56(2), 57–71.

Burnham, T. A., Frels, J. K., & Mahajan, V. (2003). Consumer Switching Costs: A Typology, Antecedents, and Consequences. Journal of the Academy of Marketing Science, 31(2), 109–126.

Wood, W., & Neal, D. T. (2009). The Habitual Consumer. Journal of Consumer Psychology, 19(4), 579–592.

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