【追悼】上原征彦先生の思い出と、私が受け取ったもの

先日、流通経済研究所でお世話になった上原征彦先生が逝去されました。

マーケティングおよび流通の研究に多大な足跡を残され、行政や産業の発展にも貢献された上原先生は、私が同研究所に入所した翌年に理事長に就任され、その後、約5年間にわたり研究所を導かれました。

私にとって、月に一度の会議で先生のお話を拝聴することは何よりの楽しみでした。また、先生が所員のために開いてくださった勉強会は、知的な刺激に満ちた特別な時間でした。流通やマーケティングの話題の中に、ユルゲン・ハーバーマスやクァンタン・メイヤスーといった哲学者の名前が登場する勉強会なんて、想像できますか?

理事長を退任された後も、先生が所内で開催される勉強会には、所員特権で参加させていただき、数多くの学びをいただきました。

当時、日々の調査・研究に没頭していた私は、どうしても近視眼的な視点に陥りがちでした。そんな時、あの独特のとぼけた口調で、重要な理論をさりげなく、しかし的確に説かれる先生のお話に触れると、霧が晴れるように視野が広がったものです。

忘れられないエピソードがあります。ある日の勉強会で、先生がホワイトボードにささっと似顔絵を描き、「これ、誰だかわかる?」と尋ねられました。居合わせた所員一同、首をかしげるばかり。すると先生は、「鳩山さんだよ」と一言。鳩山由紀夫氏を描いていたのでした。……正直に申し上げますが、全く似ていませんでした(笑)。

あの穏やかでユーモアあふれる語り口がもう聞けないと思うと、寂しさが募ります。先生から学んだ広い視点と知的好奇心を、これからも大切にしていきたいと思います。

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ところで、今年(2026年)、年明け早々の「新年のご挨拶」と題した投稿で、上原先生の代表作『マーケティング戦略論』のことを取り上げていました。

【新年のご挨拶】幕を開けた2026年、本日より始動いたします。

「2025年が去り、2026年がやって来ます。」と綴った年末の投稿から数日。 ここ、市川市は、新年らしい清々しい空気に包まれています。 改めまして、新年あけましておめで…

一部を以下に引用します。

さて、私の年末年始はというと、お餅を頬張り、お屠蘇(とそ)を嗜みながら、一冊の本と向き合う時間を過ごしていました。 手にとったのは、これまで何度も読み返してきた古典的な名著『マーケティング戦略論』(上原征彦著)です。

時代が変わっても色褪せない本質的な問いを改めて辿りながら、頭の中にあったのは、当研究所のこれから、そして、日々ご依頼をいただく皆様のマーケティングのことでした。
『マーケティング戦略論』が著された時代から、すでに四半世紀が経過し、企業のマーケティング環境や生活者の消費環境は、当時と比べて大きく変容しています※1。もし、この本が、当時最先端だったテクノロジーや、勃興するトレンドを扱っていたものであったなら、その内容は、現在のビジネスでは使えるものではないでしょう。しかし、『マーケティング戦略論』が提示する理論やフレームは、驚くほど古びていません。そのままでは使いづらいフレームであっても、少しアレンジを加えるだけで十分に使えそうですし、シンプルで切れ味の鋭い理論(例えば「情報不完全下の需要曲線理論」)は、大いに参考になるものばかりです。
斬新な技術やツールが登場して世間で取り沙汰されるようになると、私たちはついそれらを理解しようと躍起になってしまうものです。私自身、X(旧Twitter)で「本日の日経MJより」と題した投稿を継続している通り、トレンド情報の収集は日課になっています。

しかし、すぐに陳腐化する可能性の高い情報をありがたがって受け取ること(それは多くのビジネスパーソンが、急かされるようにやっていることですね)よりも、古典に学ぶこと(こちらは、大事なことだとわかっていても、やっていない人が多いと思われます)の方が、大きな意味を持つと、最近改めて感じています。
潮流、流行、兆候にも目を配りつつ、その裏側にある普遍的な原理や人間の本質――顧客企業の活動も、最終消費者の購買行動も、すべて人間の行動です――を古典から読み解く。その往還が大事であるという、身もふたもないことを年始にあえて書いておこうと思い、筆を執ってみました。

出所:市川マーケティング研究所【新年のご挨拶】幕を開けた2026年、本日より始動いたします。(2026年1月5日公開)
https://ichikawa-marketing.com/2026-beginning/(2026年6月17日閲覧)

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上原先生から私が受け取ったことは、量としては多くはなかったかもしれません。また、お話をうかがったり、著作を読んでも、私の理解力が足りず、難解に思え、理解できないことが少なくありませんでした。しかしながら、私なりに、先生から受け取り、私の中に浸透した、物事への向き合い方や考え方を、直接的にというよりは、間接的に、あるいは私の思考の至るところに遍在するように、その教えを現実のビジネスや研究の現場で血肉として活用しているつもりです。

上原先生が、そんな私の活動を見てくださったら、とぼけた口調で「へえ、やるじゃないの。ちょっと変だけど」と微笑んでくれるかもしれません。そうであれば最高にうれしいです。

上原征彦先生、本当にありがとうございました。