【レポート紹介】効率化は何を高め、何を高めないか?――技術導入は顧客体験の向上を約束しない

利便性や効率を追求することは、サービス水準の向上に寄与する一方で、その取り組み方によっては、顧客が店舗やサービスに対して抱く「愛着」や「信頼」といった大切なものを損なうことがあります。

市川マーケティング研究所のレポートシリーズでは、リアル店舗がミッションや設計思想を欠いたまま技術導入を進めることで、顧客との人間的な接点が失われ、結果として来店動機そのものが消失していく「自己強化的な効率化ループ」のリスクを論じています(Vol.10)

一方、高度なデジタル施策をあえて「やらない」という選択によって、独自の価値を築く企業にも注目しています。各社がこぞって取り組むリテールメディアやデータ活用に頼らず、クルーとの対話や発見の楽しさを際立たせるTrader Joe's(トレーダー・ジョーズ)の戦略は、効率至上主義に対する一つの回答といえます(Vol.6)

また、デジタル空間における消費の質的変化も取り上げています。ECにおける「商品との偶然の出会い」の欠如を、検索に特化したカタログ型構造の限界として指摘し(Vol.3)、効率を極めた物販ECの裏側で、コンテンツや関係性へと支出される「可処分感情(気持ちの持ち分)」の争奪戦が起きている構造を解説しています(Vol.7)

企業が効率化を推進するにあたっては、そもそも何のために行われるのか、その効率化の陰で失われるものはないか、慎重な検討が必要です。驚異的なスピードで発展を続ける生成AIと日々向き合う時代だからこそ、各レポートが、単に技術をどう使うか以上に、「私たちは社会に何を提供したいのか」という、「そもそも」の部分を問い直すための一助となることを願っています。


市川マーケティング研究所 レポートシリーズ Vol.3

ECにおける「偶然の出会い」は設計可能か
― カタログ型構造の再考 ―
2026年4月14日
著者:鈴木 雄高(市川マーケティング研究所 代表)

本稿では、ECをリアル店舗の代替ではなく、計画購買に最適化されたカタログ型構造として捉え直し、その特性を検討した。ECは効率性や品揃えの面で優位性を持つ一方、回遊や偶発的接触が生じにくく、非計画購買が発生しにくい構造を有する。この点は制約であると同時に、設計上の選択の問題でもある。
今後のEC設計においては、効率性の追求と並行して、発見の余地をどのように位置づけるかが論点となる。その際、非計画購買を誘発することに長けたリアル店舗の売場構造は、参照可能な視点の一つとなりうる。

キーワード:EC設計、非計画購買、セレンディピティ、カタログ型構造、回遊とジャンプ(ワープ)

目次:
1. はじめに
2. ECの設計思想――カタログ型構造としての理解
3. 予測と偏愛の乖離
4. 回遊の欠如と非計画購買
5. 結論と示唆


市川マーケティング研究所 レポートシリーズ Vol.6

Trader Joe’sが「やらない」理由
― 削減が生む価値と小売業への示唆 ―

2026年4月17日
著者:鈴木 雄高(市川マーケティング研究所 代表)

本稿は、米国小売業Trader Joe’s(トレーダー・ジョーズ)の事例をもとに、その経営の特徴と小売業への示唆を整理するものである。同社はプライベートブランド中心の品揃えや限定的な商品数、広告やデジタル施策への非依存といった特徴を持ち、「やらない」選択によって独自の売場を成立させている。特にポッドキャストにおける幹部の発言からは、リテールメディアや顧客データ活用を採用しない判断が、コスト配分や店舗体験のあり方と結びついていることが確認できる。本稿では、こうした削減を軸とした経営のあり方を整理し、機能の追加とは異なる価値形成の可能性を示す。

キーワード:Trader Joe’s、削減戦略、プライベートブランド、デジタル非依存、顧客体験

目次:
1. はじめに
2. Trader Joe’sの特徴
3. デジタル施策を採用しないという選択
4. 削減による価値設計
5. 日本の小売業および他業界への示唆
6. 結語


市川マーケティング研究所 レポートシリーズ Vol.7

効率性の極大化と可処分感情の争奪
― 国内EC市場における消費の二重構造 ―

2026年4月18日
著者:鈴木 雄高(市川マーケティング研究所 代表)

国内BtoC EC市場は2024年に26.1兆円規模に達し、物販・サービス・デジタルの3分野にわたって拡大を続けている。本稿はこの市場の量的拡大を前提としつつ、その背後で進む消費行動の質的変化を検討する。物販・サービス・デジタルの各分野を手がかりに、EC利用の基盤にある効率性志向が維持される一方で、領域によっては感情的関与を伴う消費様式が重なりつつあることを示す。これを「可処分感情」という概念で捉え直すことで、コンテンツ消費と関係性への支出が併存する構造を示す。さらに、この変化が分野間の境界を曖昧にし、消費体験の統合を促していることを指摘する。

キーワード:可処分感情、関係性への支出、マイナスをゼロにする消費、消費体験の統合、EC市場

目次:
1. はじめに
2. 効率性の極大化としての物販EC――「マイナスをゼロにする消費」
3. 体験の前売りとしてのサービスEC――リアルとデジタルの補完関係
4. 「可処分感情」をめぐる争奪――デジタルECの質的転換
5. 3分野の境界溶解と消費体験の統合
6. おわりに



市川マーケティング研究所 レポートシリーズ Vol.10

ミッションなき小売の効率化
― 設計思想の不在が生む帰結 ―

2026年4月20日
著者:鈴木 雄高(市川マーケティング研究所 代表)

本稿は、小売業におけるAIや自動化の導入を、技術進化そのものではなく、ミッションと設計思想のあり方という観点から捉え直すものである。多くの企業では、何を提供するかという設計よりも、何が技術的に可能かという発想が先行している可能性がある。
こうした前提のもとで、本稿はKahn(2018)が示す小売競争優位の四要素を手がかりに、リアル店舗における人間的接点の位置づけを整理する。また、設計思想を欠いた効率化がどのような構造的変化をもたらしうるのかを検討する。
結果として、リアル店舗においてミッションと整合しない効率化が進行した場合、顧客の来店動機の弱化とさらなる効率化が連鎖し、顧客との関係性や自社の存在理由が徐々に失われていくリスクが示される。

キーワード:ミッション、設計思想、AI化(自動化)、効率化、店舗体験、人間的接点

目次:
1. はじめに
2. 技術起点の意思決定と設計不在の問題
3. リアル店舗における価値軸の再定義
4. ミッションに基づく人間的接点の設計
5. 設計不在がもたらす店舗価値の動態変化
6. おわりに


【レポートの引用について】
レポートの内容は、適切な方法で引用していただくことを心より歓迎いたします。引用の際は、必ず出典として「市川マーケティング研究所」の名称と、該当記事のURLを明記してください。

〈論文の参考文献の記載例〉
鈴木雄高(2026)「欲望の生成と沈黙の構造 ― コンプレックスマーケティング試論 ―」『市川マーケティング研究所 レポートシリーズ Vol.12』https://ichikawa-marketing.com/wp-content/uploads/2026/04/20260422_Ichikawa_Marketing_Lab_Report_Vol12.pdf(公開日:2026年4月22日,閲覧日:[閲覧した日付を入力])

〈ウェブメディアなどでの引用時の記載例〉
出典:市川マーケティング研究所
レポート名:欲望の生成と沈黙の構造 ― コンプレックスマーケティング試論 ―

※レポート(PDF)のURLがリンク切れの場合は、以下のいずれかを使用してください。
https://ichikawa-marketing.com/report/
https://ichikawa-marketing.com/

レポート

公開日:2026年4月14日、最終更新日:2026年5月11日 レポートの位置づけ 市川マーケティング研究所の鈴木は、論文やコラムなどの文章を様々な媒体で発表していますが、202…