【レポートVol.11】まいばすけっと躍進の背景を非探索型消費者の視点からひも解く ― 買物を「つまらない」と捉える消費者は何を求めるのか ―

鈴木 雄高(市川マーケティング研究所 代表)
初版公開(PDF):2026年4月21日
Web版公開:2026年7月21日
要旨
本稿は、都市部における小型店舗の拡大を、従来の体験価値中心の店舗論とは異なる「非探索型消費者」の視点から再解釈するものである。買物を「つまらない」と捉え、探索そのものを回避する消費者群の存在を仮説的に整理した。この層は、情報収集や比較検討を前提とせず、迅速かつ最小限の情報で意思決定を完了する特徴を持つ。「まいばすけっと」のような小型店舗は、売場規模や選択肢の制御によって探索負担を低減し、こうした行動様式と適合することが示唆される。一方でコンビニは新規性や変化を通じた探索的価値も提供しており、両者の違いは消費者の志向の違いとして整理できる。本稿は、店舗設計が体験の充実と負担の軽減という異なる方向性を持ち得ることを示す。
キーワード:非探索型消費者、エフォートレス消費、小型店舗、店舗設計、まいばすけっと、購買行動
1.序論
リアル店舗の価値は再定義を迫られている。ECの利便性が高まるなかで、店舗の競争力としては顧客体験や滞在時間の延長が重視されてきた。売場を回遊させ、偶然の発見を促し、情緒的価値を高める設計である。
一方、都市部では、これとは異なる性格の店舗が増加している。イオングループの「まいばすけっと」である。売場は小さく、品揃えは必要最小限で、店舗ごとの差異は小さい1。演出や回遊性は抑えられている。
このチェーンが高い密度で出店し、日常利用の選択肢として定着している背景には、従来とは異なる需要の存在があると考えられる。
2.視点:買物時間の二面性
筆者はこれまで、買物を情緒的価値を伴う時間として捉え、来店前から帰宅までの体験を整理してきた(鈴木, 2026a)2。しかし、消費者の行動を見ていくと、買物時間には別の側面もある。
直近の調査分析(鈴木, 2026b)では、買物を「つまらない」と感じる層が一定数存在することが確認された。また、感情とは別に、買物を「できるだけ短時間で終えたい」とする志向はより広い範囲に見られる。
この結果は、店内での回遊や比較検討の時間が、少なくない消費者にとって価値ではない可能性を示している。買物を楽しむ対象ではなく、生活上のタスク(必要不可欠な行為)として捉える層にとっては、買物に要する時間の長さ自体が負担となりうる。
3.考察:非探索型消費者という整理
こうした行動を説明するために、本稿では「非探索型消費者」という概念を用いる。筆者による分析結果3を踏まえつつも、仮説的な整理として提示するものである。
従来の課題志向型消費者は、目的を持ち、その達成のために効率的に探索する存在として理解されてきた。この点については、Kaltcheva and Weitz(2006)4やAlbrecht et al.(2017)5においても検討がなされている。しかし、これらの研究が前提としているのは、買物という行為自体に一定の価値を見出しつつ、その遂行過程における効率性やストレスを問題とする消費者像である。
これに対し、本稿で取り上げる非探索型消費者は、こうした前提とは異なり、探索行動そのものを回避し、買物行為自体を早期に終了すべきタスクとして捉える点に特徴がある。
筆者の分析では、「買物はつまらない」と感じる消費者が、単に購買関与が低い存在ではなく、特有の意思決定様式と行動合理性を有する一群として捉えられる可能性が示唆されている。分析においては、「迅速志向」を起点として、「情報簡素志向」「こまめ買い志向」「近距離志向」が連鎖的に重なる構造が確認された。これらの結果は、当該消費者の行動が場当たり的なものではなく、一貫した志向の組み合わせとして理解できることを示している。
この消費者群を特徴づける本質は、探索行動そのものを回避する点にある。すなわち、情報を収集し比較検討するプロセスを前提とせず、必要最小限の情報で迅速に選択を完了する行動様式である。本稿ではこの特徴を「非探索型」と概念化する。
売場情報は少ない方がよい、販促物は参考にしない、推奨提案も必要としないといった志向は、効率的探索ではなく探索の回避を示している。また、買物は価値を高める行為ではなく、完了すべきタスクとして位置づけられる。
このような志向は、迅速に終えたいという意識と結びつきやすい。選択肢が絞られていること、売場が小さいこと、配置が固定されていることは、いずれも探索の負担を減らす方向に作用する。
まいばすけっとの売場は、こうした条件を満たしている。必要な商品が限られた範囲に配置され、店舗間の差異も小さい。この構造は、顧客が自ら選択を最適化するのではなく、店舗側があらかじめ選択の幅を制御することで負担を軽減していると捉えられる。
4.店舗の役割:意思決定負担の低減
効率を重視するのであれば、ECへの移行が進んでもよいはずだが、現実には店舗利用は維持されている。
食品購買には、即時性や物理的確認といった制約がある。必要なタイミングで入手できることや、品質を直接確認できることは、現時点ではECによって完全には代替されていない。
この条件下で、非探索型消費者にとっての店舗は、短時間で確実に購買を完了できる手段として機能する。とりわけ、慣れ親しんだ小型店舗は、デジタルデバイス以上に直感的に扱えるインターフェースとして機能する。行動は習慣化されやすく、決まった経路と手順で処理される。
このような行動は、結果として同一商品の反復的な選択を生みやすく、購買は習慣化された処理へと近づいていく。
5.提言:エフォートレス設計という選択肢6
以上の整理は、体験価値の重要性を否定するものではない。むしろ、店舗設計の方向性が一つではないことを示している。
滞在や回遊を通じて価値を高める設計が有効な場面は引き続き存在する。一方で、短時間での完了を重視する設計も、明確な需要に基づく戦略となりうる。
近年の小売企業の戦略発信においても、こうした方向性は確認される。たとえばローソンの竹増貞信社長は、首都圏に新業態のミニスーパーを出店することを発表した際、新業態について「何の特徴もないのが特徴であるようなお店にしたい」、「変哲もないお店だけど、何の不満もない。身近な日常のパートナー」として位置付けたいと語っている7。これは、体験価値よりも日常的な利便性や安定性を重視する消費者層への対応を志向したものと解釈できる。
こうした位置づけを踏まえると、小型店舗による効率的な購買という観点では、コンビニとの類似も想起される。しかしコンビニは、品揃えを絞りつつも商品の入れ替え頻度を高めることで、選択の変化や新規性を提供している側面がある。これは探索負担を抑えながらも、一定のバラエティシーキングに応える設計といえる。これに対し、本稿で扱う非探索型消費者への適合は、変化よりも安定を優先する点に特徴がある。
特に来店頻度の高い顧客の中には、店舗に楽しさではなく処理の効率性を求めている層が含まれる可能性がある。この場合、情報量の削減や動線の単純化は、サービス水準の低下ではなく価値の提供となる。顧客の時間を奪わず、判断の負担を最小限に抑えること自体が、多忙な生活者に対する一つのホスピタリティと捉えることができる。
頻繁に通ってくれているからといって、必ずしも店に体験的価値を求めているとは限らない。むしろ、何も付け加えずに、いつも通りに買物を完了させられること自体が、継続利用の理由となっている場合もある。
この設計は、日常的な食品や生活必需品の購買など、来店頻度が高く、購買目的が明確で、かつ時間制約が強い利用場面において有効であると考えられる。また、都市部の生活動線上に立地する小型店舗との親和性も高い。
6.結論
まいばすけっとの拡大は、リアル店舗の価値が体験の充実だけでは規定されないことを示している。
買物の負担を減らし、短時間で完了できる環境を整えることは、一部の消費者にとって重要な価値である。
リアル店舗は、体験を強化する方向だけでなく、負担を減らす方向にも設計されうる。その選択は、対象とする顧客と利用場面によって規定される。
本稿で提示した非探索型消費者という視点は、このような店舗設計の選択を整理するための一つの手がかりとなる。
〈注〉
1.まいばすけっとの1店舗当たり平均面積は約50坪(約165平方メートル)、取扱商品数は約3300品目ということである(日本経済新聞電子版, 2025年2月8日)。
2.鈴木(2026a)では、店舗での買物について、「来店前」「店内探索」「購入決定」「帰り道」の4局面におけるワクワク感を分析し、期待、偶発的発見、選択、所有から使用までの移行に伴う情緒的価値が連続する体験として捉えている。
3.当該分析は未公表の研究結果である。
4.Kaltcheva and Weitz(2006)は、課題志向型の消費者には効率的な店舗環境が適合することを論じている。この研究の関心はあくまで「どのような環境が望ましい購買体験をもたらすか」に置かれており、買物という行為そのものに対して否定的な評価を抱く消費者は分析の射程に含まれていない。
5.Albrecht et al.(2017)は、買物時のストレスと購買放棄との関係を検討し、課題志向型の消費者のストレス反応を確認した。この研究は特定の買物場面における一時的なストレス反応や回避行動を対象としており、買物そのものに対する持続的・包括的な否定的態度を捉えるものではない。
6.エフォートレス設計とは、消費者の購買行動における情報探索・意思決定・移動等の負担を最小化し、短時間かつ低負荷で購買を完了させることを志向した店舗設計の考え方を指す。
7.流通ニュース(2026年4月17日)。
〈参考文献〉
Albrecht, Carmen-Maria, Stefan Hattula, and Donald R. Lehmann (2017), “The Relationship between Consumer Shopping Stress and Purchase Abandonment in Task-Oriented and Recreation-Oriented Consumers,” Journal of the Academy of Marketing Science, 45(5), 720–740.
Kaltcheva, Velitchka D. and Barton A. Weitz (2006), “When Should a Retailer Create an Exciting Store Environment?”, Journal of Marketing, 70(1), 107–118.
鈴木雄高(2026a)「リアル店舗における購買体験の時間的構造 ―『4つのワクワク』から考える来店価値の本質―」『市川マーケティング研究所 レポートシリーズ Vol.4』https://ichikawamarketing.com/wp-content/uploads/2026/04/20260416_Ichikawa_Marketing_Lab_Report_Vol4.pdf(公開日:2026年4月16日,閲覧日:2026年4月21日)
鈴木雄高(2026b)「買物における時間意識の分析―小売店舗の顧客体験設計への示唆―」『流通情報』第57巻第6号(通巻579号,2026年3月),pp.14–26. https://www.jstage.jst.go.jp/article/deiryutsujoho/57/6/57_14/_article/-char/ja/
日本経済新聞電子版(2025年2月8日)「進撃のまいばすけっと、安さドンキ超え 秘訣は『没個性』」https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC2405M0U5A120C2000000/(閲覧日:2026年4月21日)
流通ニュース(2026年4月17日)「ローソン/ミニスーパー『Lミニマート』26年度上期に開始、生鮮品などを安価に提供」https://www.ryutsuu.biz/strategy/s041744.html(閲覧日:2026年4月21日)

