【レポートVol.3】ECにおける「偶然の出会い」は設計可能か ― カタログ型構造の再考 ―

鈴木 雄高(市川マーケティング研究所 代表)
初版公開(PDF):2026年4月14日
Web版公開:2026年7月3日

要旨
本稿では、ECをリアル店舗の代替ではなく、計画購買に最適化されたカタログ型構造として捉え直し、その特性を検討した。ECは効率性や品揃えの面で優位性を持つ一方、回遊や偶発的接触が生じにくく、非計画購買が発生しにくい構造を有する。この点は制約であると同時に、設計上の選択の問題でもある。
今後のEC設計においては、効率性の追求と並行して、発見の余地をどのように位置づけるかが論点となる。その際、非計画購買を誘発することに長けたリアル店舗の売場構造は、参照可能な視点の一つとなりうる。

キーワード:EC設計、非計画購買、セレンディピティ、カタログ型構造、回遊とジャンプ(ワープ)

1.はじめに

近年、EC(電子商取引)は急速に拡大し、消費者の購買行動において不可欠なチャネルとなっている。利便性や効率性の高さにおいて、ECはリアル店舗を凌駕する側面を持つ。さらに、売場面積という物理的制約を受けないため、品揃えにおいても優位性を持つ。しかしその一方で、リアル店舗において多く発生している「非計画購買」1は、ECにおいては十分に再現されているとは言い難い。

本稿では、ECの設計思想を再検討し、それがリアル店舗ではなく、カタログ通販のデジタル化に近い構造を持つことを指摘する。その上で、ECにおける「偶然の出会い(セレンディピティ)」の設計可能性について考察する。

2.ECの設計思想――カタログ型構造としての理解

ECを「リアル店舗のデジタル版」と捉える見方もある。しかし実態としては、その構造はむしろカタログ通販に近い。膨大な商品データベースを背景に、ユーザーは検索やカテゴリー分類を手がかりに目的の商品へと到達する。

この構造は、目的商品の探索という点において極めて優れている。検索窓を起点とした購買行動は、最短距離での到達を可能にし、効率性を最大化する。しかしその反面、リアル店舗における、売場を移動する過程での未知の商品の発見は、構造的に生じにくい。

検索結果は入力された条件との関連性が高い商品を優先的に提示するため、周辺的な情報や意図しない接触は排除されやすい。この結果、ECでは取り扱い商品数が膨大であるにもかかわらず、ユーザーが実際に接触する商品やカテゴリーは限定されるというパラドックスが生じる。

3.予測と偏愛の乖離

ECにおける商品提示は、多くの場合、購買履歴や閲覧履歴に基づくレコメンドによって補完される。これは統計的な相関にもとづく予測であり、合理性の観点からは極めて洗練された仕組みである。

しかし、リアル店舗における売場は、必ずしもそのような合理性のみによって構成されているわけではない。書店や専門店の売場では、スタッフの関心や推奨、すなわち「これを届けたい」という意思が商品配置に反映される。このような人為的で主観的な編集は、必ずしも最適解ではないが、顧客にとっては新たな関心への入口となりうる。

ここには、「予測」と「偏愛」の乖離が存在している。ECは前者に強みを持つが、後者を表現する仕組みは限定的である。このことが、ECにおける発見の乏しさの一因となっている。

4.回遊の欠如と非計画購買

リアル店舗における購買行動の特徴は「回遊」にある。消費者は売場を移動しながら、多様な商品と連続的に接触する。その過程で、当初は想定していなかった商品に関心を持ち、購買に至ることがある。

これに対して、ECにおける行動は「ジャンプ」に近い。検索結果やリンクを介して特定の商品ページへと直接的に移動するため、空間的な連続性が伴わない。いわば「ワープ」のような移動である。この構造では、移動そのものが体験として成立しにくく、非計画購買の発生余地も限定される。

このように、ECは目的商品への到達の最適化には優れる一方、買物過程の豊かさにおいては制約を抱えている。

5.結論と示唆

以上の検討から、ECはリアル店舗の単なる代替ではなく、「計画購買に最適化されたカタログ型構造」を持つチャネルとして理解されるべきである。この構造は効率性に優れる一方、偶然の出会いや非計画購買といった価値を生み出しにくい特性を持つ。

ただし、すべてのECがこうした価値の実現を志向する必要はない。目的商品の迅速な取得を重視する購買においては、検索中心の構造は合理的であり、強みとして機能する。

他方で、顧客の関心の拡張や購買体験の価値向上を志向する場合には、意図的に「発見の余地」を組み込む設計が検討対象となる。検索による到達の最適化とは異なる、回遊的な体験をいかにデジタル上で実現するかが課題となる。

リアル店舗の売場は、動線設計や商品配置、情報提示などを通じて非計画購買を誘発してきた実践の蓄積であり、これらは上記の設計課題を検討する上で有用な参照点となる。

〈注〉

1.鈴木(2016)によれば、スーパーマーケットにおいては、1980年代から2020年代に至るまでの店頭調査の結果、購入商品の7割以上が、あらかじめ予定されていない「非計画購買」によるものであることが確認されている。

〈参考文献〉

鈴木雄高(2016)「店内における消費者購買行動の基礎知識」公益財団法人流通経済研究所(編)『インストア・マーチャンダイジング〈第2版〉』日本経済新聞出版社,pp.24-50。

【PDF版レポート】