【コラム】パンチくん人気で考える「応援消費」の受け皿

先日、コラムでも取り上げましたが※1、市川市の人口が50万人に達しました。

最近、そのこと以上に市川市民の間で話題になった(であろう)出来事といえば、ひとつは、市内在住のフィギュアスケート中井亜美選手が、ミラノ・コルティナ2026冬季オリンピックで銅メダルを獲得したことでしょう。中井選手、おめでとうございます!

そして、もうひとつは、市川市動植物園のニホンザル「パンチくん」。まさにフィーバーと呼んでも良いほどの人気者となったパンチくんは、日本だけではなく、世界中の人々の心をつかんでいます。

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ぬいぐるみを抱きしめて奮闘する小さなパンチくんの様子が、「#がんばれパンチ」のハッシュタグと共にソーシャルメディアで発信されると、単なる感動に留まらず、大きな共感につながっていきました。

「パンチくんに会いたい」という人々が、市川市北部(奥市川とも呼ばれます)の市川市動植物園にたくさん訪れ、長蛇の列が連日発生しました。記録的な来場者数となり(2026年2月の来園者数は前年同月比2倍以上の47,000人だったそうです。また、2026年4月7日の公式X投稿によると、2025年4月から2026年3月までの来園者数は348,885人となり、前年度を10万人以上超過する1987年の開園以来の最高人数となったといいます)、これ自体が、園にとっての収入増につながることはもちろんなのですが、それだけにとどまりません。

消費者行動の文脈でいうところの「応援消費」が発生したのです。

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応援消費が発生するということは、買って応援したいという想いを受け止める「受け皿」が必要ですが、市川市動植物園には、元々その「受け皿」となるものが十分にあったわけではありません。

園に行きたくても行けない人は多く、パンチくんを応援したい、市川市動植物園を応援したいというファンや、中には、急増する来園者に献身的に対応する園のスタッフの皆さんを支援したいと思った人もいたと思うのですが、こうした人々が、自分の温度感で支援できる、複数の「応援の受け皿」を、園は(または、市川市は)短期間のうちに整備しました。

ふるさと納税では、園の公式Xでの案内により、たった一晩で約60万円の寄付が集まりました。
また、パンチくんの多彩な写真から成る「LINEスタンプ」は120円とリーズナブルなこともあり、気軽に応援できることに加え、スタンプ使って知人とメッセージをやり取りすることで、さらに共感や応援の輪が広がります。
国内外からの寄付の受付方法も明示し、多くの支援が集まっています。

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正直、私も驚きました。その対応の速さと適切さに。
何せ、実施主体は自治体である市川市なのです。
自治体が、ここまで迅速に動いたことに驚きを禁じえません。

本当に素晴らしいと思います(なお、公式Xのきめ細やかで絶妙な投稿が、パンチくんのみならず、園自体への共感を集め、それが応援消費につながったことは、特筆すべきことです)。

園の皆さんは、想定外の盛り上がり、パンチくんフィーバーを前に、喜ばしい思いだけではなく、戸惑うことばかりだったと思うのですが、極めて円滑に、スマートに対応しておられたと思います。そして、4月現在も盛り上がりは継続中で、まだまだ続きそうです。

パンチくんも良いけれど、カワウソも、レッサーパンダも、アルパカも、サル山のニホンザル以外のサルたちも、オランウータンも、モルモットも、鳥類も、ミニ列車もおすすめですよ――園の公式Xでは、パンチくん関連情報や、毎日の混雑状況を発信する以外にも、他の動物たちや円の施設のことを発信しています。が、これは、従前より行っていたことです。

急な盛り上がりへのイレギュラーな対応の巧みさだけでなく、普段から地道にセンスのよい投稿を続けてきていた、その実力がいかんなく発揮されているのだと思います。

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応援消費やバイコットについては、近々、別のところで詳細な解説文を書く予定なのですが(そこでもパンチくんの事例を取り上げる予定です)、母親の育児を受けられずに飼育員さんに育てられ、オランウータンのぬいぐるみを抱きしめながら群れに加わろうとがんばるパンチくんの物語が、ソーシャルメディアで広がり、人々の感情が動き、それが、来園、購買、寄付というアクションに結実した本件は、応援消費の象徴的なケースといえるでしょう。

消費者行動のテキストにも掲載されるのではないでしょうか。応援消費、バイコット(buycott)の代表的な事例として。
誰かが映画化されるのではないかとも言っていましたが、既に打診が世界各国から来ているかもしれませんね。

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応援消費が注目されるきっかけは、2011年3月11日に発生した東日本大震災でした。被災地の産品を買って応援しようという機運が高まったことを覚えている人も多いことでしょう。

2024年に石川県で発生した能登半島地震と豪雨による大きな被害に対する応援消費の盛り上がりも記憶に新しいと思います。

また、コロナ禍には、ここ市川市で「#カンパイ市川」という、通常営業ができなくなった飲食店を支援するためのプロジェクトが有志によって立ち上がりました(柏市での取り組みからインスピレーションを受け、即座に取り組んだといいます)。
同じく市川市で、飲食店でのテイクアウト利用を促し、飲食店の応援につなげるとともに、コロナ禍で対面する機会を失った人たちが交流するきっかけを生み出す「おいしくやくそく宣言」も、応援消費のきっかけを作った取り組みでした。

参考1:キャンプファイヤー「カンパイ市川 〜市川市飲食店応援プロジェクト〜」https://camp-fire.jp/projects/272086/view

参考2:特定非営利活動法人フリースタイル市川 公式サイト「【おいしくやくそく宣言】について」(公開日:2021年1月22日、最終更新日:2022年3月9日、閲覧日:2026年4月8日) https://fs-ichikawa.org/oishiku_yakusoku/

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市川マーケティング研究所のウェブサイトでも取り上げた「バイコット(buycott)」という概念も注目されています。

不買運動を意味する「ボイコット(boycott)」の対義語で、造語です。「買わない」ことで抗議や拒絶の意思を表明するボイコットに対して、バイコットは、積極的に買うことで、支持や共感、応援の意思を示す行動を意味します。購入や消費を、社会的、または、政治的な意思表示の手段として捉え直す概念です。

関連記事を2つ紹介します。

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3か月前のNIKKEI Asiaに"Boycott-hit US brands in Malaysia and Indonesia scramble to reverse losses"(マレーシアとインドネシアで不買運動の標的となった米国ブラン…

【コラム】「#モスバーガーゆるーく応援」に見る「バイコット(buycott)」の兆し

3日前の2026年2月19日、ヤフーニュースにこんな記事が掲載されました。 日本の飲食店で店長を目指す──。「特定技能2号」でキャリアアップ目指すベトナム人青年 支援する…

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ソーシャルメディアで触れた情報に触発され、「応援したい」と感じることは珍しくありません。

ただ、その感情は長くは続きません。ソーシャルメディアでは、少しスクロールすれば別の情報が流れ込み、通知が届けば意識はそちらへ移ります。「あとで調べよう」と思った瞬間に、共感は静かに薄れていきます。
ちなみに、ソーシャルメディアでは延々と(これを「永遠と」と表現する人もいて、私は違和感を覚えますが、今、言及している件では「永遠と」でも間違いではないと思います)下へ下へとスクロールできてしまうことが、今、問題視されてもいますね。

とにかく、パッと芽生えた「応援したい」という想いも、注意・関心の奪い合いの「アテンションエコノミー」の構造の中では、すぐに弱まり、薄くなり、消えてしまいます。

だからこそ、ECサイトの役割は重要です。ソーシャルメディア投稿からECサイトへ迷わず飛べるように導線が設計されていれば、感情が高まった瞬間に購買に移ることができます。しかし導線がなければ、その感情は行き場を失って消えてしまいます。

ECサイトで事業にかける想いや商品開発の背景が丁寧に語られていれば、消費者は単なる買い手から、物語を共有する共感者へと変わるかもしれないのです。

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ところで、冒頭の画像は、コロナ禍前の2019年、今から7年前に、私(市川マーケティング研究所の鈴木)が、3世代で市川市動植物園を訪れた際に撮影したものです。子どもたちは、今ではすっかり大きくなりました。

7年後、今は幼いパンチくんは、大きくたくましく育っていることでしょうね。

市川マーケティング研究所は、愛情を込めてお世話をしてくださっている市川市動植物園の飼育員の皆さんを「応援してるよ~」※2

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〈備考〉

※1:と書きましたが、勘違いで、そのようなコラムを当研究所のウェブサイトには掲載していませんでした。大変失礼しました。

※2:突然のため口、大変失礼しました。これは、「甘露寺蜜璃は竈門兄妹を応援してるよ~」(吾峠呼世晴『鬼滅の刃』12巻、101話「内緒話」より)のオマージュです。甘露寺蜜璃さんは鬼殺隊の最上位「柱」のひとり「恋柱」で、前週中の呼吸「恋の呼吸」の使い手です。竈門兄妹とは、竈門炭治郎さん(兄)と竈門禰豆子さん(妹)のことです。

吾峠呼世晴『鬼滅の刃』12巻、101話「内緒話」より