【レポート紹介】「選ぶ」「参加する」という行為をいかに設計するか――企業・選挙・地域活動

私たちが日々迫られている「選ぶ」という行為。その集積が、企業の売上となり、選挙の得票数となり、地域活動の参加者数となります。いかにして、選んでもらうか、参加してもらうか、いかにして豊かな関係性や社会参加を設計できるか。営利企業に加え、政治や地域活動における「選ぶ」という行為を考えたい方に読んでいただきたいレポートを公開しました。

まず、地域活動への参加を「する・しない」の二元論から解放する視点を提示しました。市川マーケティング研究所の鈴木が地元・市川市でNPO法人の理事を務める中での試行錯誤をベースに、地域活動への参加の障壁を下げ、低負荷な段階から関与を深めていく「段階化」の設計思想を論じています(Vol.8)。ソーシャルメディア(SNS)での情報接触といった小さな行為も、地域活動への関与として認め、関与の濃淡に価値の序列を設けないことが、初期関与の心理的ハードルを下げる鍵となります。

また、「買物」と「投票」という二つの意思決定プロセスを比較した試論(Vol.9)では、意思決定の構造的差異を浮き彫りにしました。買物では失敗が即座にフィードバックされ、学習によって判断精度が高まるのに対し、投票では影響の不可視性や結果の遅延により「学習回路」が機能しません。その結果、情報収集をあえて控える「合理的無知」や安易な直感(ヒューリスティック)への依存を招くメカニズムを解説しました。

その他、ユニークなレポートしては、市場の成長が難しい成熟・縮小業界において、顧客と情緒的に結びつくための「企業となり」戦略を提案したものがあります(Vol.14)。老舗の書店チェーン、有隣堂のYouTube活用の事例を通じ、企業の個性を誠実に可視化することが、価格や利便性では代替できない「なぜその企業から買うのか」という問いへの回答(消費者の立場では「その企業を選ぶ理由」)につながることを示しています。


市川マーケティング研究所 レポートシリーズ Vol.8

地域活動における関与の段階化
― なぜ地域活動は参加しにくいのか ―

2026年4月20日
著者:鈴木 雄高(市川マーケティング研究所 代表)

本稿は、地域活動への参加が広がりにくい要因を、個人の意欲や属性ではなく「関与の構造」の問題として捉え直すものである。消費行動との比較を通じて、地域活動ではフィードバックが遅延かつ不明確であること、さらに参加が「する/しない」という二分法で理解されがちなことが、初期関与の障壁を高めている点を指摘する。そのうえで、関与を段階的に設計し、各段階を正当な参加として位置づける枠組みを提示する。これにより、参加の入口を広げるとともに、関与の持続と移行を促す可能性を論じる。

キーワード:関与の段階化、地域活動、参加行動、フィードバック構造、初期関与、関与設計

目次:
1. 問題の所在
2. フィードバック構造の非対称性
3. 関与の二分法とその限界
4. 関与の段階化という設計
5. 初期関与の設計と移行の連続性
6. 結論


市川マーケティング研究所 レポートシリーズ Vol.9

投票と購買
― 「選ぶ」という行為の構造的差異をめぐる試論 ―

2026年4月20日
著者:鈴木 雄高(市川マーケティング研究所 代表)

投票と購買はいずれも「複数の選択肢の中からひとつを選ぶ」という意思決定の構造を共有するが、その文脈的条件は大きく異なる。本稿では、消費者行動論と行動経済学の知見を参照しながら、両者の共通性と構造的差異を整理する。共通の骨格として、五段階の意思決定モデルが両者に適用可能であることを示しつつ、ヒューリスティックへの依存が購買・投票の双方で観察されることを確認する。その上で、両者の最も根本的な差異として「学習の非対称性」を提示する。購買では失敗がフィードバックされ判断の精度が高まるが、投票ではこの回路が構造的に阻害される。この帰結としてDownsの「合理的無知」が生じ、ヒューリスティックへの依存が高まる。さらに「関与の逆転」と「対象の流動性」という概念を導入し、投票行動の特異性を論じる。最終節では、両者が「自己表現」という次元で交わることを示しつつ、「合理的な意思決定」が文脈依存的な概念であることを確認する。

キーワード:学習の非対称性、合理的無知、関与の逆転、ヒューリスティック、対象の流動性

目次:
1. 投票と購買の比較からみえる問い
2. 共通の骨格
3. 学習の非対称性
4. 関与の逆転と対象の流動性
5. 自己表現としての消費と投票


市川マーケティング研究所 レポートシリーズ Vol.14

縮小市場における「企業となり」戦略
― YouTubeチャンネル「有隣堂しか知らない世界」に見るファンとの関係づくり ―

2026年4月28日
著者:鈴木 雄高(市川マーケティング研究所 代表)

書店市場の縮小が続く中、有隣堂は公式YouTubeチャンネル「有隣堂しか知らない世界」(以下、「ゆうせか」)を通じて、独自のファン層の形成に成功している。本稿は、その成功をコンテンツ・マーケティングの成功事例として捉えるのではなく、「企業となり」の可視化という観点から考察する。「企業となり」とは、「人となり」から着想した、企業の個性・人格・体温ともいうべきものを指す筆者の造語である。「ゆうせか」は、販促や広報を前面に出さず、人とキャラクターを通じて企業の個性を誠実に可視化することで、信頼と共感に基づくファンとの関係を築いてきた。本稿では、この事例を通じて、成熟・縮小市場において「企業となり」の可視化がなぜ重要かを論じる。

キーワード:企業となり、ファン形成、オーセンティシティ、コンテンツ・マーケティング、縮小市場、差別化戦略

目次:
1. はじめに
2. 書店市場の構造変化と有隣堂の位置づけ
3. 「有隣堂しか知らない世界」の設計思想―「売らない」ことの戦略的意味
4. 「企業となり」の可視化―人とキャラクターを通じた信頼の形成
5. 成熟市場において「企業となり」戦略が持つ意味
6. おわりに


【レポートの引用について】
レポートの内容は、適切な方法で引用していただくことを心より歓迎いたします。引用の際は、必ず出典として「市川マーケティング研究所」の名称と、該当記事のURLを明記してください。

〈論文の参考文献の記載例〉
鈴木雄高(2026)「欲望の生成と沈黙の構造 ― コンプレックスマーケティング試論 ―」『市川マーケティング研究所 レポートシリーズ Vol.12』https://ichikawa-marketing.com/wp-content/uploads/2026/04/20260422_Ichikawa_Marketing_Lab_Report_Vol12.pdf(公開日:2026年4月22日,閲覧日:[閲覧した日付を入力])

〈ウェブメディアなどでの引用時の記載例〉
出典:市川マーケティング研究所
レポート名:欲望の生成と沈黙の構造 ― コンプレックスマーケティング試論 ―

※レポート(PDF)のURLがリンク切れの場合は、以下のいずれかを使用してください。
https://ichikawa-marketing.com/report/
https://ichikawa-marketing.com/

レポート

公開日:2026年4月14日、最終更新日:2026年5月11日 レポートの位置づけ 市川マーケティング研究所の鈴木は、論文やコラムなどの文章を様々な媒体で発表していますが、202…