【レポートVol.2】ドミナント戦略の再定義 ― 店舗網から都市型物流インフラへ ―

鈴木 雄高(市川マーケティング研究所 代表)
初版公開(PDF):2026年4月14日
Web版公開:2026年6月30日
要旨
本稿は、従来のドミナント戦略を店舗網の最適化ではなく、都市型物流インフラの構築として再解釈するものである。これまで否定的に捉えられてきたカニバリゼーションを、即時配送を支える拠点密度や、大型店から小型店へ供給を行う「惑星―衛星モデル」の構築に寄与するものと位置づけ、店舗網の価値を単体の収益性からネットワーク全体の機能性という視点で評価する。その上で、今後のドミナント戦略の焦点は、店舗の量的な拡大にとどまらず、地域需要に応じ、提供機能の質をいかに高めるかに移ると論じる。
キーワード:ドミナント戦略、都市型物流インフラ、カニバリゼーション、惑星―衛星モデル、即時配送(クイックコマース)
1.はじめに
ドミナント出店1は、従来、物流効率の向上やブランド認知の強化を目的とした小売業の基本戦略として理解されてきた。しかし、ECの普及、とりわけ店舗を起点とした新たな配送・受取モデルの登場により、その意味は再検討を要する局面にある。本稿は、ドミナント戦略を販売網の最適化ではなく、都市型物流インフラの構築として捉え直すことを試みるものである。
従来、同一エリア内での高密度出店は、カニバリゼーション(自社競合)のリスクを内包するものとされてきた。すなわち、店舗数の増加は売上の分散を招き、一定水準を超えると収益性が低下するという理解である。このため、企業は「いかに食い合わずに店舗網を拡張するか」という制約条件のもとで出店網を構築してきた。
2.ドミナント戦略の再解釈
しかし、店舗を起点としたECサービスの拡大は、この前提を揺るがしつつある。とりわけ、即時配送を志向するサービスにおいては、その兆しが見られ始めている。例えば、セブン-イレブンが展開する「7NOW」は、既存の高密度な店舗網を活用し、近隣顧客への配送を試みる取り組みの一例である。
もっとも、こうしたサービスは現時点では限定的な広がりにとどまっており、その利便性を積極的に享受する需要も、必ずしも十分に顕在化しているとはいえない。
しかしながら、今後、即時性や近接性に対する需要がより広範に顕在化した場合、高密度に配置された店舗網は、顧客に近接した在庫拠点として機能し、配送効率と応答速度の両面において優位性を発揮する可能性がある。
この観点に立てば、カニバリゼーションは必ずしも否定的に捉えるべき現象ではない。むしろ、店舗間の距離が短縮され、ネットワーク密度が高まることによって、配送効率や即時対応力が向上するという側面を持つ。すなわち、店舗同士の競合は、売上の分散であると同時に、物流機能の強化という効果を併せ持つのである。このように、ドミナント戦略における評価軸は、「店舗単体の収益性」から「ネットワーク全体の機能性」へと移行しつつある。
3.新たな展開:惑星―衛星モデルの萌芽
さらに近年では、大型店舗と小型店舗を組み合わせた新たな出店・供給モデルの萌芽も観察される。その一例として、トライアルホールディングスと西友の動きが挙げられる。
同社は、大型店舗である西友の周辺に小型店のトライアルGOを配置し、西友で製造した弁当や惣菜などをトライアルGOに供給する構想を示唆している2。これは、大型店が製造・供給機能を担い、小型店が生活動線上に配置された販売・受け渡し拠点として機能する構造である。
本稿では、このような構造を「惑星―衛星モデル」と呼ぶ。すなわち、大型店を中核(惑星)、小型店を周辺拠点(衛星)とみなし、空間的近接性を活かした供給ネットワークとして捉えるものである。
もっとも、このモデルは現時点では構想段階にあり、その有効性やスケーラビリティについては今後の展開を注視する必要がある。しかし、従来のセントラルキッチン依存型の供給体制とは異なる、空間配置そのものを活用した効率化の可能性を示すものとして注目に値する。
4.結論と含意
ドミナント出店による店舗網は、単なる販売チャネルを超え、都市の消費と物流を接続するインフラとなりうる。ただしその価値は、需要側が多機能化をどの程度必要とするかに委ねられている。
特に高密度な店舗配置を前提とする、都市部におけるコンビニエンスストアやドラッグストア、小型スーパーなどの小売業態は、配送や受取の拠点を兼ねるポテンシャルが高い。一方で、機能の付加は運営の複雑化やコスト増を伴うため、一概に効率化の手段として片付けることができない点には注意が必要である。
したがって、ドミナント出店を進める企業においては、今後、店舗密度そのものではなく、商圏内の需要に対してどのような機能を提供できるかが問われる局面に移っていくと考えられる。
〈注〉
1.特定の地域内に集中して多店舗展開を行う戦略をドミナント戦略と呼び、主な目的は物流効率の向上やブランド認知の強化、競合の出店阻止によるシェア向上にある。この戦略に基づく出店をドミナント出店と呼ぶ。
2.株式会社トライアルホールディングス(2025)による。
〈参考文献〉
株式会社トライアルホールディングス(2025)「トライアルホールディングスと西友の経営統合が完了 西友の新社長に楢木野 仁司が就任」2025年07月02日、ニュースリリース、https://trial-holdings.inc/news/release/686382439f0b7297ddd48fb7/ (2026年4月14日閲覧)
