ヤオコーとオーケーは市川市田尻で対峙する

注目すべき企業の注目すべき店舗といえば、東京都内にあるものと思われるかもしれません。が、実は市川市内にもあるのです。今回取り上げるのは、首都圏のスーパーマーケット企業の双璧、ヤオコー(本社は川越市)とオーケー(本社は横浜市)の店舗です。

「スーパー総選挙」のトップ2が田尻で睨み合う

スーパーマーケット業界に従事する人で、この2社に注目しない人はいないのではないでしょうか。市川市内には、ヤオコーが3店舗、オーケーが2店舗、出店しています(店舗数は2024年10月15日現在)。店舗名は次の通りです。

■ヤオコー 市川市内の店舗
・ヤオコー市川田尻店
・ヤオコー市川新田店
・ヤオコー市川中国分店

■オーケー 市川市内の店舗
・オーケー市川田尻店
・オーケー本八幡店

両社とも、市川田尻店がありますね。ヤオコー市川田尻店とオーケー市川田尻店。その距離、約400メートル※1。睨み合う龍虎のように、互いを意識しないわけにはいかない、ヒリヒリするような競合関係にあります。

2024年8月29日に開票された、TBSラジオの名物企画「スーパー総選挙」※2の第5回では、第1回から第4回まで全ての回で1位だったオーケーは2位となり、代わって1位に輝いたのは、これまでに何度も2位となっていたヤオコーでした。スーパーマーケット業界内評価も高い2社ですが、ユーザーからの支持も高いのです。

ちなみに、ヤオコーとオーケーの特徴を説明すべきだと思うのですが、それは別の機会にするとして、ここでは簡単に

  • 食生活提案型スーパーマーケットを志向しているヤオコー
  • 正直な商いで地域最安値を目指すオーケー

とだけ言っておきましょう。オーケーの特徴でもある、「正直な商い」については、別の機会に触れたいと思います。

というわけで、今回は、市川市田尻の地で店舗が対峙するヤオコーとオーケーの2社の業績や経営の効率性などを比較します。参考までに、同じ業界の企業で、2社よりも売上規模が大きく、店舗数の多い、「スーパー総選挙」では4位となったライフコーポレーション(以下、ライフ)の数値も併記します。

ヤオコー、オーケー、ライフの店舗数(2023年度末)

まずは、店舗数を見てみましょう。

ヤオコー、オーケー、ライフの2023年度末における店舗数のグラフ。ヤオコ0は205店舗、オーケーは151店舗、ライフは305店舗。ヤオコーには他屋号の店舗も含まれている。

ヤオコーの店舗数は205店舗ですが、これは企業としての数字で、屋号別の内訳は、ヤオコー187店舗、エイヴイ13店舗、フーコット5店舗となっています。オーケーは単一の屋号で151店舗です。

ちなみに、ライフの店舗数はヤオコーより100も多く、オーケーの約2倍に上ります。もっとも、各社の出店エリアは、ヤオコーとオーケーが首都圏に収まっているのに対し、ライフは近畿圏と首都圏に出店しています。食品をメインで扱うスーパーマーケット企業としては珍しい出店スタイルですね※3

ヤオコー、オーケー、ライフの売上高(2023年度)

続いて、売上高を確認します。

ヤオコーとオーケーの売上高は、いずれも約6,000億円で、オーケーの方がやや大きいです(が、その差は275億円で、決して大きな差ではありません※4)。店舗数の多いライフはさすがに売上高が大きく、2社を大きく上回っていますね。

ヤオコー、オーケー、ライフの営業利益率(2023年度)

それでは、「稼ぐ力」を表す営業利益率※5はどうでしょうか。2社およびライフの数値を見る前に、一般的にスーパーマーケット企業の営業利益率がどのくらいなのかを確認しておきます。スーパーマーケット業界3団体の調査※6によると、売上高1,000億円以上のスーパーマーケット企業44社の営業利益率の平均は、0.99%でした。

この数字と念頭において、3社の営業利益率を見てみると……

3社とも、44社平均を大きく上回っています。特に高いのがオーケーで、6%弱という高さ。ヤオコーも5%弱で、ライフの約3%に大きく差をつけています。

高い営業利益率を維持する企業は、事業を通じて得た利益を、更なる事業の発展のための投資に充てることができます。オーケーもヤオコーも、獲得した営業利益を、更なる商品力や販売力の向上、業務効率化などのために活用することで、顧客の支持を集めているのでしょうね。「スーパー総選挙」でトップを争い続けている2社の強さは、本業の稼ぐ力の強さによって支えられていると言えそうです。

ヤオコー、オーケー、ライフの販管費率(2023年度)

販管費は、商品を販売するために要する経費で、付随するサービスの提供や、在庫管理などで発生する支出も含みます。売上高を100%とした時の販管費の割合が販管費率です。3社の販管費率は下図の通りです。

3社のうち販管費率が最も低いオーケーの数値は、最も高いライフのほぼ1/2です。この差には驚かないわけにはいきません。同じスーパーマーケットの事業で、これだけ大きな差が出るとは。ちなみに、ヤオコーはオーケーとライフの間ですね。

「高品質・Everyday Low Price」のオーケー

ところで、オーケーが掲げている「高品質・Everyday Low Price」をご存知でしょうか。「高品質」は商品の品質の高さを、「Everyday Low Price」(以下、「EDLP」)は、「毎日低価格」で販売することを表しています。「EDLP」のポイントは、「Everyday=毎日」にあります。

日本のスーパーマーケットでは、新聞折り込みチラシに割引販売商品を掲載し、目玉商品と呼ばれる特に低い価格の商品で集客する、という価格政策を採用している企業が多く、この価格政策を「High & Low」(またはHi-Lo)と呼びます。「High Price」(定番価格)と「Low Price」(特売価格)を繰り返します。これに対してオーケーは、他に先んじて「EDLP」を掲げました。他企業では、例えば西友がこの価格政策を採っていることで知られます。

EDLPで販売するには、その分、「販管費率」を低水準に抑えなくてはなりません。売場における従業員の作業を効率化する工夫に工夫を重ねた結晶が、オーケーの極めて低い「販管費率」に現れています。これが、「オーケーは安い!」とユーザーに言わしめる低価格販売を可能にしているのです。

ヤオコー、オーケー、ライフの既存店売上高(前期比、2023年度)

最後に、「既存店」の売上高がどの程度増えたのか、あるいは減ったのかを確認します。小売業や外食産業などの店舗ビジネスを営む企業は、店舗売上高の前期比を公表することが多いのですが、大抵、「全店」の売上高と、「既存店」の売上高を開示しています。

「全店」売上高は、当該期中に開店した新店の売上高が加わっているのに対し、「既存店」売上高は、新店分が含まれていない、開店後13か月が経過した店舗の売上高です。「既存店」の売上高の増減を見ることで、地域における店舗の支持の高さを確認できます。

それでは、ヤオコー、オーケー、そして、ライフの既存店売上高前期比を確認しましょう。

3社とも100%を超えていますが、オーケーは108.8%と特に高く、ヤオコーも107.7%と高いですね。

既存店の売上高が増加している(増加を続けている)企業は、店舗に固定客がついており、高い支持を得ていると考えられます。地域密着の店舗事業を営む企業において、この「既存店売上高前期比」は、特に重要な意味を持つので、後日、別の業界でも確認してみたいと思います。

まとめ

本稿では、各社の直近の業績と、経営の効率性を表す指標を比較しました。

「スーパー総選挙」のトップ2企業が市川市の田尻に店舗を出していること、業績のよい両社は、本業で稼ぐ力が業界内でもずば抜けて高いこと、オーケーは販管費が極めて低いことなどが確認できました。

ヤオコーのワインの品ぞろえがよいことや、コロッケやメンチカツなどの総菜が美味しいということ、あるいは、オーケーの品揃えは他チェーンとはちょっと違うことや、焼きたてピザが美味しいことなどの特徴には触れませんでしたが、機会があれば商品の品揃えなどについてもコラムで扱いたいと思います。実際に購入して食べてみた、という食レポのような記事を書くかもしれません。

それでは、またお目にかかりましょう。市川マーケティング研究所の鈴木でした。

*****

〈注釈〉

※1:ヤオコー田尻店とオーケー田尻店の店舗間距離は、約400メートルなのですが、そのことを考える時、ふと思い出す一節があります。それは、こんな言葉です。

その時彼女との距離は0.1ミリ。57時間後、僕は彼女に恋をした。

出所:映画『恋する惑星』のキャッチコピーより引用。

私は映画『恋する惑星』を1994年の劇場公開時に映画館で鑑賞することが叶わず、後にVHSテープやDVDで何度も繰り返し見ました。とても愛着のある作品で、劇中、フェイ・ウォン演じる女性が、ホットドッグ店で働いている最中、ママス&パパスの「California Dreamin’」を大音量で流して、音楽に合わせて踊るときに手に持っていたケチャップとマスタードの容器(画像参照)を購入し(フェイ・ウォンを真似て部屋で曲を流して踊っ)たほどです。2017年6月2日に渋谷のBunkamuraル・シネマにおけるリバイバル上映を――ネットで予約した時には既に99%の座席が埋まっており、残されたほぼ唯一の席だった最前列中央のシートで、スクリーンを見上げるようにして――鑑賞した時は感激しました。

ケチャップとマスタードの容器。映画『恋する惑星』で、フェイ・ウォンが演じる人物が、ママス&パパスの「California Dreamin’」を聞きながら、これらを両手に持って踊る場面がある。

※2:TBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」の人気企画で、リスナーが思う「最高のスーパー」を投票するというもの。2024年に行われた第5回の結果(ベスト10)は、以下の通りです。

1位  ヤオコー     6,581票
2位  オーケー     5,589票
3位  スーパーベルクス 3,752票
4位  ライフ      2,793票
5位  ロピア      1,830票
6位  フレスタ     1,645票
7位  スーパーマルハチ 1,419票
8位  sanwa    1,096票
9位  文化堂      1,066票
10位 コモディイイダ    948票

出所:株式会社TBSラジオ プレスリリース「【速報】リスナーの皆さんの最高のスーパーを決める『第5回スーパー総選挙』 結果発表!」(2024年8月29日)https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001539.000003392.html

※3:ヤオコーの出店エリアは、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、群馬県、栃木県、茨城県、オーケーの出店エリアは、神奈川県、東京都、千葉県、埼玉県です。なお、オーケーは来月(2024年11月)、関西1号店となるオーケー高井田店を大阪府東大阪市高井田に出店することになっています。将来的に、ライフのように首都圏と近畿圏の2大消費地に店舗網を築くことになるでしょうか。
なお、販売する商品のほとんどが食品でありながら、出店エリアが広域に及んでいるチェーンに、ロピアと業務スーパー(運営会社は神戸物産)があります。業務スーパーは、直営店舗を出店している他のスーパーマーケット企業と異なり、ほとんどの店舗がフランチャイズチェーンとして運営されていることもあり、広域に出店しやすいのだと考えられます。ロピアの出店スタイルは独特で、首都圏から飛び出して全国に店舗を広げていった時期のドン・キホーテを思わせるようなところもあります。現在では海外にも出店しています。

※4:2社の売上高の差は、ヤオコーの前期からの売上高増加分の半分程度です。なお、営業収益(売上高+営業収入)は、ヤオコーが6,196億円、オーケーが6,239億円と同水準で、ほぼ同列、ほぼ横一線に並んでいます。

※5:「営業利益率」の「営業」は、「本業」の意味だと考えると理解しやすいです。次の式で求めます。
営業利益=売上高-売上原価-販管費
「売上原価」は、販売した商品の仕入れや提供したサービスを生み出すためにかかった費用です。小売業の場合は仕入代金です。
「販管費」は、「販売費及び一般管理費」の略で、「売上高」を獲得するために要した費用です。スーパーマーケット企業の場合、店舗従業員の人件費や、何台もの冷蔵庫を稼働させることなどで生じる水道光熱費が占める割合が高いです。「販管費」は、賃金の引上げ、電気代の上昇などにより、増加します。
「営業利益率」は、「売上高」=100%とした時に「営業利益」が占める割合です。この指標を業界内の複数企業で比較すれば、どの企業が効率よく稼いでいるかを知ることができます。また、同一企業について、時系列でどのように推移しているかを見れば、稼ぐ力が高まっているのか、低下しているのかを把握できます。

※6:スーパーマーケット業界3団体とは、一般社団法人 全国スーパーマーケット協会、一般社団法人 日本スーパーマーケット協会、オール日本スーパーマーケット協会のことで、ここで参照した3団体による調査結果は「2023 年 スーパーマーケット年次統計調査 報告書」に掲載されているものです。本文中で紹介した営業利益率0.99%というのは、2022年4月~2023年3月までに決算を迎えた、売上高1,000億円以上の44社の平均値です。なお、同調査によると、売上高の規模が小さい企業群ほど、営業利益率が低い傾向になっていました。

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