【コラム】「サステナブル」を“人”から考える──ヤマト運輸とFPTの協業に学ぶ、人中心の持続可能性

耳目にする機会が増えている「サステナブル」という言葉。この言葉は、「環境」や「エネルギー」など、地球規模の問題として語られることが多いでしょう。もちろん、企業や団体が活動する上で、これらの課題を意識することは欠かせません。
しかし、持続可能性の本質は、より身近なところ──人の暮らしや働き方、誰が社会を支えているのか──にもあります。「人」をどう支えるかという視点で捉えることで、サステナビリティの具体的な姿が見えてきます。
2025年11月13日に、ヤマト運輸がベトナムのFPTグループと協業し、大型トラックドライバーの育成・採用に取り組むことを発表しました。このニュースから、“人を起点にしたサステナビリティ”のあり方を考えてみましょう。
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日本では、大型トラックドライバーの平均年齢が50.9歳と、輸送を担う人材が高齢化し、物流の現場では“人が足りない”という状況が深刻になっています。物流は、あらゆる産業にとって生命線です。このままドライバーが減り続ければ、社会の基盤が揺らいでしまいます。ドライバー不足は、いわば、日本全体のサステナビリティに直結する問題です。
一方、ベトナムでは国外で働きたい若者が増えています。FPTはベトナムで大規模な教育機関を運営し、多くの若者を育ててきた企業です。今回、ヤマト運輸とFPTが手を組むことで、「日本の人手不足」と「ベトナムの成長意欲」を同時に満たす仕組みが生まれました。
特徴的なのは、単なる人材“確保”ではなく、丁寧な「育成」と「定着支援」に重きを置いている点です。ベトナムでは半年間、ヤマト監修の安全教育に加え、日本語、そして、日本文化についても教育するといいます。来日後も一年かけて語学・運転技術・生活支援が続きます。その後、日本で働きながら、さらに成長できるキャリアパスを用意することになっています。
外国人に対して、日本人と同じように働きがいのある環境をつくろうとする、極めて意欲的な取り組みであり、大胆な投資です。ヤマト運輸としては、持続可能なビジネスを行っていくために、必要な投資であると考えているわけですね。
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人口減少社会を迎える日本では、企業の価値は「どう人を集めるか」ではなく、「どう人を育て、どう共に働くか」に移行しつつあります。今回の取り組みは、その最前線の一例といえ、“人的サステナビリティ”を具体化し、未来像として示す動きとして捉えることができます。
また、外国人労働者を“補充要員”として扱うのではなく、安心して暮らせる生活基盤を整えることを重視している点も重要です。住まい、生活サポート、スキルアップの支援がセットになることで、外国人がその能力を遺憾なく発揮できる環境がようやく整いはじめていると言えます。共生社会とは、単に「受け入れること」ではなく、「対等な存在として共に生きる環境をつくること」だと示しています。
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筆者は、今回の協業を、日本企業の間に広まりつつある“サステナブルな人材戦略”の象徴的なものだと見ています。外国人材の活用というと、コストや制度面が議論されがちですが、本質はもっと前向きで創造的です。国境を越えて学び合い、働き合い、未来の産業を共に支えていくことで、新しい価値や文化が生まれるでしょう。それこそが「持続可能な社会」を次の段階へ進める力になります。
この事例は、物流業界の中だけの話ではありません。企業のサステナビリティを考えるとき、「人の持続性」をどう設計するか?多様な背景をもつ人材とどう向き合い、どう育て、どう社会に関わっていくか?このような視点が、これからますます重要になります。
ヤマト運輸とFPTの連携は、人口減少社会を生きる私たちにとっての“新たな持続可能性の形”を示すものであり、これからの企業や社会のあり方について、大きな示唆を与えてくれています。
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〈参考情報〉
FPTジャパンホールディングス株式会社、ヤマト運輸株式会社 ニュースリリース
「FPTジャパンとヤマト運輸、特定技能制度を活用したベトナム人大型トラックドライバーの採用・育成に関する基本合意書を締結 外国人ドライバーの採用・育成プラットフォームを構築し、物流業界全体の輸送力強化に貢献」(公開日:2025年11月13日、閲覧日:2025年11月14日)
https://www.yamato-hd.co.jp/news/2025/newsrelease_20251113_1.html
厚生労働省「統計からみる運転者の仕事」
https://driver-roudou-jikan.mhlw.go.jp/truck/work

