オオゼキの最東端店舗は市川にあり

市川市の田尻には、首都圏のスーパーマーケット企業の中でも特に注目度の高い2社、ヤオコーとオーケーの店舗が、至近距離に存在する――

そんな、一見、些細なことのようにも思えることに注目して、2社の業績や経営の効率性などを綴ったコラム「ヤオコーとオーケーは市川市田尻で対峙する」を、少し前に公開しました。

本稿でもスーパーマーケット企業を取り上げます。今回はオオゼキ(本社は東京都世田谷区)に注目します。

15年前に開店したオオゼキ市川店

市川市とオオゼキの関係は、

  • オオゼキ唯一の千葉県内店舗は市川駅南口にある市川店
  • オオゼキ市川店はオオゼキ最東端店舗

ということで、オオゼキ市川店は、ある意味で貴重な存在とも言えます。

実は、オオゼキ市川店は、本稿執筆中の2024年9月25日から同年10月17日までの23日間、リニューアルに伴う改装工事で休業中です。

オオゼキ市川店は、入居する建物である、市川駅南口のアイリンクのザ・タワーズ・ウエストがオープンした2009年の9月に開店しました。15年前ですね。開店以降、現在に至るまで、今回の工事の前に改装をしたかどうかを確認することはできませんでしたが、開店からの年月が長くなると、徐々に売場の魅力が低下するものなので※1、使い勝手の良い店舗にし、魅力を高め、お客様の支持を得たいと考えて、改装工事を行ったと考えられます。

リニューアルオープンは、2024年10月18日(金)です。いつもオオゼキ市川店を利用していたお客様(既存顧客)にとっては、待望の営業再開ですね。また、リニューアルオープンを機に、利用したことがなかった人(未顧客)や、以前は使っていたものの最近は利用しなくなっている人(離反顧客)が、「どれどれ、試しに使ってみようか」と、トライアルするケースも多いことでしょう。私も買物しに赴く予定です!

オオゼキの直近7期の売上高

近年のオオゼキの売上高の推移を確認します。下図は、オオゼキ公式サイトに掲載されている決算情報を用いて作成した直近7期の売上高の推移です。

2023年2月期は、売上高が2期連続減少となり、1,000億円を下回りましたが、2024年2月期は1,000億円を超えました。

オオゼキは、かつては上場していましたが、現在は非上場企業なので、株主の意見を気にする必要がありません。売上高が多少減少したとしても、短期の成果よりも、中長期的な目標の達成を重視し、落ち着いて対応しそうですね。

オオゼキの直近7期の営業利益率

続いて、本業での稼ぎの効率を表す営業利益率※2の推移を確認します。

営業利益率は、少しずつ低下しているように見えます。2021年2月期に突如前期から1.3ポイントも上昇しましたが、これはイレギュラーだと考えるのがよさそうです。2018年2月期以降、2022年2月期までは6%超の高い水準でしたが、直近2期は6%を下回りました。

このように、同一企業の業績指標を時系列でみることで、増えている/減っている、高くなっている/低くなっている、という変化を把握でき、そこから、良くなっている/悪くなっている、という判断ができます。オオゼキの営業利益率は(売上高はそうでもないのですが)徐々に低下していることがわかり、稼ぐ力が弱まっているのでは?という仮説を立てられるのです。

オオゼキと大手3社の営業利益率(2023年度)

オオゼキの営業利益率が徐々に低下している(?)というデータを見ましたが、それでは、「横比較」してみましょう。つまり、同一業態の他社との比較です※3

2024年に行われたTBSラジオの「第5回スーパー総選挙」※4、1位となったヤオコー、2位だったオーケー、4位のライフの2023年度(2024年2月期または3月期)の営業利益率と、オオゼキのそれを比較してみました。

オオゼキの営業利益率は、オーケーにはわずかに及ばないものの僅差です。優良スーパーマーケット企業として知られるヤオコーを凌駕しています。

オオゼキの営業利益率は低下していても、スーパーマーケット業界の中では高水準を維持しているということがわかりますね(以前の6%台や7%台がいかにハイレベルな数値だったかということも!)。

オオゼキと大手3社の販管費率(2023年度)

続いて、オオゼキの販管費率を他社と比較します。販管費※2は、商品やサービスを販売・提供するために要する経費で、在庫管理などで発生する支出も含みます。売上高を100%とした時の販管費の割合が販管費率です。

オオゼキおよび、ヤオコー、オーケー、ライフの販管費率を低い順に並べると、

オーケー < オオゼキ < ヤオコー < ライフ

となっていますね。

地域最安値を目指しているオーケーの販管費率が低いことは以前のコラムで紹介しましたが、ライフより10ポイント以上も低く、ヤオコーよりも3ポイント弱低いオオゼキの管費率も、かなり低いと言えます。

公式サイトによると、

オオゼキでは1店舗当たり総勢約50~60名の社員・スタッフを配置しています

これは同規模サイズの店舗で比較すると同業他社の2倍以上

とのことで、

通常は2割~3割程度とされる正社員比率は約7割

という高さです(引用元はいずれもオオゼキ公式サイト「3つの特徴」)。

それにもかかわらず、販管費率は低水準です。人手をかけて、お客様にとって買いやすい売場づくりをしているオオゼキですが、販管費率は抑えられている、ということですね。人手をかけるところには、かける。一方で、無駄な作業を削減するなど、コスト管理はしっかりと行っているのでしょう。

実は、販管費率が極めて低いオーケーも、例えば、「従業員一人当たり売場面積」が、ヤオコーやライフよりもかなり狭いことがわかっています。出店している地域の特性が各社で異なるので、単純な数値の比較が、各社の経営効率の優劣を表すとは言えないのですが※5、オーケーやオオゼキは、かなりメリハリをつけて、販管費をかけるところ、販管費をかけないところを、分けているのではないかと想像します。

まとめ

本稿では、最東端の店舗が市川駅前にあるスーパーマーケット企業、オオゼキの業績を確認しました。

オーケーなどの業界大手企業とは、店舗数や売上高など、企業規模が異なるため、経営指標の単純比較で大手企業よりも優れた経営をしているなどと言い切ることはできないのですが、そうは言っても、オオゼキは、かなりの店舗運営巧者だと思います。

などと書きましたが、個人的に思うオオゼキの大きな魅力は、ホスピタリティに溢れた店舗従業員の接客なのですよね。あの活気のある売場!生き生きと働いている従業員の皆さん!

このあたりのことについても、近いうちにコラムで取り上げたいと思います。

それでは、またお目にかかりましょう。市川マーケティング研究所の鈴木でした。

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〈注釈〉

※1:長年営業を続けている店舗には、固定客がついていて、厚い支持基盤を築いていることが少なくありませんが、設備類が老朽化していたり、売場のレイアウトが一昔前のお客様の買い方に合わせたものになっていて、今の買い方には必ずしも合っていないなど、買物のしやすさが低下していることもあります。放置しておくと客離れが進み、売上低下につながりかねません。そこで、既存店のテコ入れということで、既存店を改装する小売企業は多いです。
最近、既存店の改装に注力する企業が多い理由としては、新規出店に適した土地が見つからないこと、新規出店をしても従業員の確保が難しいこと、建築資材の値上がりや工事従事者の人件費の高まりで工事費が上昇していることなどが挙げられます。
その点、固定客のついている既存店であれば、休業中に競合店舗に一時的に流れてしまうリスクはあるものの、改装により魅力を増すことで、売上増につながりやすい、と考える小売企業が多いと考えられます。

※2:「営業利益率」の「営業」は、「本業」の意味だと考えると理解しやすいです。次の式で求めます。
営業利益=売上高-売上原価-販管費
「売上原価」は、販売した商品の仕入れや提供したサービスを生み出すためにかかった費用です。小売業の場合は仕入代金です。
「販管費」は、「販売費及び一般管理費」の略で、「売上高」を獲得するために要した費用です。スーパーマーケット企業の場合、店舗従業員の人件費や、何台もの冷蔵庫を稼働させることなどで生じる水道光熱費が占める割合が高いです。「販管費」は、賃金の引上げ、電気代の上昇などにより、増加します。
「営業利益率」は、「売上高」=100%とした時に「営業利益」が占める割合です。この指標を業界内の複数企業で比較すれば、どの企業が効率よく稼いでいるかを知ることができます。また、同一企業について、時系列でどのように推移しているかを見れば、稼ぐ力が高まっているのか、低下しているのかを把握できます。

※3:スーパーマーケット業界3団体とは、一般社団法人 全国スーパーマーケット協会、一般社団法人 日本スーパーマーケット協会、オール日本スーパーマーケット協会のことで、参照した3団体による調査結果は「2023 年 スーパーマーケット年次統計調査 報告書」に掲載されているもの。グラフ中の横線、営業利益率0.99%は、2022年4月~2023年3月までに決算を迎えた、売上高1,000億円以上の44社の平均値です。なお、同調査によると、売上高の規模が小さい企業群ほど、営業利益率が低い傾向でした。

※4:TBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」の人気企画で、リスナーが思う「最高のスーパー」を投票するという人気企画。

※5:オーケーやオオゼキの店舗の多くが立地する東京都内は、ヤオコーの店舗が多く出店している埼玉県よりも地価が高く、人件費も高い、ということを考慮しなくてはなりません。同じシーズンにプレイした野球選手のホームラン本数を、各選手の本拠地スタジアムのサイズが異なる場合に、本数の単純比較で、打者のホームランを打つ能力の優劣を判断することは難しいですが、これと似たような話かもしれません。